現代そばシーンを語る際に欠かせない人物として評されている店主の小川宣夫氏。1990年に開店した東京阿佐ヶ谷のそば店「慈久庵」を、2001年に茨城県の山間にある旧水府村に移転。小川氏を動かしたものは、「里山の風景を守りたい」という一途な思いでした。
故郷に戻り最初に手掛けたことは、かつて村で行われていた焼き畑農業によるソバ栽培の再興でした。その規模は年々広がり、今では自家栽培の玄ソバが東京の有名店などに卸されるようになっています。「焼き畑農法で作ると不思議とカリ分が多く風味の強いそばができるのです」と。焼き畑農法で栽培し、手刈り天日乾燥したソバを石臼で粗びきに自家製粉します。その品質の良い粉が独特の透明感を生み、口あたりが優しく香り高い風味を醸し出すのです。
店は、日本有数の長さを誇る吊り橋・竜神大吊橋に向かう入口付近に静かに佇んでいます。大正ロマン漂う雰囲気で、山の風景を眺めながら落ち着いて食事が楽しめる趣があります。メニューは、「せいろそば」(1200円)、「鴨せいろ」(1800円)、「そばがき」(1500円)、「そば粉とトリュフのポタージュ」(1300円)、「慈久庵コース」(3100円~)など。
また、小川氏が故郷の活性化を願い挑み続けてきた常陸秋ソバの乾燥麺が、2007年に「いばらきブランド認証」を受け、通信販売でも購入できるようになりました。同じく自家製粉したうどんの乾燥麺、厳選素材使用のつゆなどをセットにした箱入りが4300円~で販売されています。
「蕎麦や小麦、お茶といった昔からこの地域で見られた風景や在来農法を守り、取り戻す作業への取り組みの連続は、苦しく、つらく、楽しい日々でした。しかし、この中からこれらを支えていただく仲間達もでき、すばらしい光が生まれています」。”里山の再生”という原点が、故郷を愛する人々の心を動かし、力強く支えているのです。(海藤)
茨城県常陸太田市天下野町2162
TEL/0294-70-6290
営業時間/11:30-14:30
定休日/火曜日、水曜日、木曜日(祝日の場合営業、翌日休み)
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(登録第5290824号)