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第一話〜第十九話はゆたり出版の「かさまのうつわ」に再編集し収録されています。「かさまのうつわ」はネット通販、書店、販売協力店でお買い求めできます。詳しくは本とゆたりをご覧ください。


[かさまのうつわ] 記事数:19

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第十六回 馬目隆広さん

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 少し胸をそらすようにして粉引の柔らかな灰白色の空を飛ぶ鳥。陶炎祭をはじめとする陶器市などで馬目隆広さんのブースに並ぶ鳥紋のカップは、見る人の心を明るくする朗らかさをまとっています。





 福島生まれ、松戸育ち。理工学系の高校に進みますが、高校2年のときのアルバイトをきっかけに美術の世界を志します。「機会があって彫刻のモデルをしたんです。夏休み、友達と2人で彫刻家の方のアトリエに行ってポーズをとる。目の前で塑像が出来上がっていくのを見て、これは面白そうだ、自分にもできるんじゃないかと思ったんです」

 高校3年生の夏休みから美大進学の勉強を始め、二度のチャレンジを経て東京藝術大学美術学部彫刻科に入学。4年学んだ後、大学院に進み、そこから更に研究生に。ちょっと圧倒されるような経歴ですが、ご本人は至って控えめに「昔から通信簿で5を取れるのは美術だけだったんで」と笑います。

 馬目さんが陶芸を始めたのは大学4年生のとき。台東区の竜泉窯で小山耕一氏に師事します。芸大でさまざまな素材に触れて等身大の人体などを制作していたのなら、手の平サイズの陶芸は入りやすかったのではないかと思いますが、「いや、難しかったですよ。最初は失敗ばかりでした。それで“なぜだ?” とその原因を探りたくなって、また挑戦して…。陶芸は、何度やっても思い通りにならないところが面白かった」とおっしゃいます。
 また、大学の授業で国立博物館収蔵の織部の器などを間近に見る機会に恵まれたという馬目さん。その中で「人体の塑像などは、大陸やヨーロッパからの影響を濃く受けているけれど、縄文土器や桃山時代の焼き物を見て、日本人の血に入っているようなオリジナルの美術作品は器なんだと思ったんです」





 笠間のアーティストには多才な人が多く、馬目さんもその筆頭。トレードマークのほうろうの黄色いポットで淹れるコーヒーは玄人はだしの美味しさで、イベントの出店には行列ができます。趣味のギターやウクレレを奏でて歌うと、いつのまにか周りに人が集まり笑いがあふれます。作家仲間からの人望も篤い馬目さんですが、作家同士のつながりができたのは、東日本大震災の後からだったそう。
 「それまでは作家の知り合いも少なくて、個人個人でやっていた感じが強かったんですが、震災で崩れた窯の片付けなどに手を貸し合ううち、つながりができていきました」。震災をきっかけに、額賀章夫さんらと立ち上げた「Save Kasama Pottars」もその一つです。数人の作家で呼び掛けあって箸置きを作り、それを全国で取り扱ってもらうことで笠間の被災の現状を知ってもらおうという狙い。そして、作品を作り続けることで作家自らが自らを救うという意味も込められていました。
 そのとき馬目さんが出品した箸置きも、鳥がモチーフ。平坦な箸置きではなく、立体的で動きのある造形は箸置きでありながら小さな彫刻作品とも言えます。
 「よくこれはハトなんですか? と聞かれますが、カップの鳥紋にしてもこの箸置きにしても、とくに何の鳥、というわけではないんです。ほかのたくさんの器と一緒に並ぶと埋もれてしまうことの多い粉引に何か自分なりのモチーフがあるといいなと思って描いたのがこの鳥でした」





 馬目さんの作る器は粉引が中心。カップやポット、飯碗に蓋物。プレートも定番の円形から、四角がかった楕円のものなどさまざまなアイテムがあります。そのどれにも共通しているのが、手に取る人を思わずほっとさせるような雰囲気。丁寧に作られたものなのに、肩に力が入っていない優しさを含んでいてほほ笑みを誘われるのです。
「陶芸のいいところは、値段も手頃だからたくさんの人の手に渡ること、それを使って楽しんでもらえることですね」。陶芸のほかにも他分野の作家と「三輪舎」というユニットを結成し、古道具などをリメイクした作品を発表している馬目さん。
「ずっと、何か作って生活していきたいです。土をはじめとしたいろんな素材を使って、自分のオリジナルの表現は何かということを探していきたい」




to_dining&dailygoodthings





 馬目さんの2014年の新作プレートに盛り付けられたのは、ダイニング「to_」の日替わりオードブル。キャロットラぺのオレンジ色、からし菜・ルッコラ・水菜のグリーン、紫キャベツ…。豚のロースハムはもちろんのこと、ポテトサラダに使用しているマヨネーズまで自家製です。

 田口博之さん・砥綿(とわた)明子さんご夫妻が「to_」をオープンしたのは2014年9月。あか抜けた店構えと美味しい料理にワインが評判を呼んでいます。お店の内装などに、何かお手本があるのかお聞きすると、「雑誌の切り抜きを集めてイメージブックを作ったり、写真集を参考にしたり、2人の好きなものを集めてきました。テーブルも椅子も、ひとつひとつイメージを伝え合って納得したものを選んできたんです。流行に左右されない雰囲気にしたいと思っています」と田口さん。田口さんがワインやコーヒーなどのドリンクを、お料理は明子さんが担当しています。東京都内の様々な飲食店で経験を積んだ明子さんの料理を食べた人は口々に「おかわりしたい味」「もっと食べたくなる味」と言います。
 「野菜をたくさん使い、素材を生かしたシンプルな味付けを心がけています。なるべく、体に負担の少ないもの。毎日食べてもまた食べたくなる、食べ疲れしない料理を作りたいですね」。そしてワイン担当の田口さんは、イタリアに渡りワインの作り手に会う旅もしています。
 「ワインにも作り手の良心は出ます。そういうものは飲み比べると違うんですよね。そして、to_では何か食べるものがほしくなるワイン、料理を呼ぶワインを提供していきたい。彼女の料理は、ちゃんと塩気がありつつバランスのとれた優しい味。ワインにもとても合うんです」






 今回焼き物の器を使ったご感想を伺うと「陶器はあまり使ったことがないので始めは戸惑いました。でも、料理を乗せてみたらきれいに収まる。ふちが上がっていて盛り付けやすいし、色味もいい味ですね。何より温かみがあってすてきだと思います」と明子さん。
 日々手に取っても飽きない器、毎日食べてもまた食べたくなる料理にワイン。繰り返し使ったり口にしたりすることでその良さが深く理解できる器と料理は、素材は違えど、とてもよく似たものなのかもしれません。(しばた あきこ)







DATA:

to_dining&dailygoodthings

茨城県水戸市泉町2-2-44|Tel.029-227-3122
営業時間|昼の部/11:30〜15:00(L.O.14:00)
     夜の部/17:30〜22:00(L.O.21:00)
     ※昼は全席禁煙、夜は喫煙可
定休日|日曜日
    ※その他、月に一度不定期でお休み
HP|http://www.to-mito.com





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