山の入り口に、まるでその緑の中に溶け込むかのように作られた「茶屋雨巻」。そこは、町の中心部から少し車を走らせ、益子で一番高い山、雨巻山のふもとにあります。
茶屋雨巻は石窯ナポリピッツアをメインとしたお店で、こちらのオーナーが数年前に東京からこの雨巻山のふもとに居を構えたという高松康さん。音楽関係の仕事をしていましたが、前々から50歳を過ぎたら何か始めたいと思っていたところ、パンを作るのが好きな友人が、「パンとコーヒーを出すお店をやりたい」というのがきっかけで始めたのが4年前。
大工さんや木工作家さん、窯師さんなど頼もしい仲間がいたので、その仲間とともに店舗の建築を手がけ、石窯とキッチンとカウンターのある半野外のお店が出来上がりました。初めはピタサンドを提供する週末だけオープンのスタイルに。音楽の仕事の傍らという面もあったので、「自分のペースでできれば」と思っていたそうですが、雑誌の掲載をきっかけにお客様も増えたので、改装をしたのが2年前。スタッフも増員し、営業日も増やしてピッツアも提供するようになりました。
東京にいた頃は老舗イタリアンのシェフの経験もある高松さんですが、ピッツアを焼く経験はなかったので、この時自分の作りたい、目指すピッツアとはどういうものなのかを探るため、ピッツアが美味しいと評判の店を食べ歩き、改めて勉強を重ねたそうです。「今までの経験だけでなく、お店を始めてからあれこれ試行錯誤することはありました」。目指すものはナポリピッツアだけれど、これは450℃~500℃の高温で一気に焼き上げなければいけないのに、使っていた半球型の煉瓦の釜は実際そこまで温度が上がらなかったため、周りを固めてさらに改良もしました。やはり元料理人、お店として提供するのなら自分の納得いく美味しいものを作りたいというこだわりが感じられます。そうして出来上がったピッツアは生地がもっちりとして香りがよく、シンプルなだけにきちんと計算され作られたものであることがわかります。おすすめは「自家製豚のリエットとししとうのピッツア(¥1200)」。実は人気メニューの「雨巻マイルドココナッツカレー(¥950)」についてくる自家製ナンもピッツアの生地をそのままこの石窯で焼くオリジナルレシピで、モチっと食べ応えのある仕上がりです。
「でも、何でもよかったんですよ、作るものは。ラーメンでも蕎麦でも。こういう環境の中で何かができればいいと思っていたので。ただ、このロケーションでやっぱりラーメンは違うかなと思って。」楽しくできて、お客様にのんびりしてもらえればいい、肩の力を抜いて、自然にあふれたこの環境に身をゆだねているかのような笑顔で高松さんは言います。
そしてこの冬「茶屋雨巻」再び改装をし、よりお客様に居心地のいい空間をと客席を広げました。しかし、外との境目のないことはそのままで、雨巻山の緑をダイレクトに感じられる客席。そして半野外ではあるけれども、細かいところまで行き届いた内装やインテリアに目を奪われてしまいます。入り口のすぐ横にはアーティストの仲田智さんが手がけた作品があり、それは陶器の釉薬のテストピースが整然と並べられ、様々な色や質感のあるテストピースが益子らしい一つの景色を伝えています。
「今後はこの周辺に住む人たちが集まって、それぞれ作っているものを販売できるマルシェのようなものとか、みんなで集まって何かできればいいなと。せっかくのこの場所をもっと生かせればと思っています」。かつて住んでいたオーストラリアの田舎町の物々交換のあるマルシェ。何もないけれど豊かなあの雰囲気を思い出して、ここでもそんなことができたら、といきいきとした表情で語ってくれました。(eMi.S)
住所/栃木県芳賀郡益子町上大羽1234
TEL/0285-77-5354
定休日/毎週月曜・火曜、第1・3・5水曜
営業時間/第2,4水曜、毎週木・金曜11:30〜15:00(L.O.14:30)
土・日・祝11:30〜16:00(L..O.15:30)
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