益子の中心部から少し車を走らせて、ガタガタと舗装もされていない道を進んでいく。どこまで行くのだろうと思ううちに、目の前に現れた急な坂を上ると、緑の景色の中にそのお店は現れます。
「もえぎ」は益子に2店舗あります。ひとつは焼き物販売店が軒を連ねるメインストリートに焼き物中心とした城内坂店、もうひとつは益子の外れの静かな場所にある本店。そこでは、それぞれの役割を持った2棟の建物に、焼き物はもちろん、ガラスや木工、金工、布ものまで、さまざまな手仕事の作品が数多く並んでいます。
現在の社長である大塚和美さん自ら、この建物の設計をし、1店舗目とは違う、焼き物に限らないお店を目指してつくられました。「益子には陶芸家はもちろん、その他にもさまざまな手仕事をする人やアーティストの方がいるので、その発表の場を益子に作りたいと思いました。せっかく益子に居て創作活動しているのに、発表の場が益子じゃなく、東京とか、他の場所と言う人が多かったので」。そうしてもえぎ本店がつくられたのは、観光の中心部から離れた自然に囲まれた場所。町中ではできないことをここではやってみたい、それは例えば鍛造のような大きな音を立てて作業することやさまざまなワークショップ。音楽を演奏することも、ここでは何にも憚かるものはありません。
この敷地内にある2棟の建物には、それぞれの要素と役割があります。ひとつは「買い物ができる美術館」がテーマである『アトリウム』。そこを使う人にも、そこを訪れる人にも緊張感を持ってもらう。作り手と対決したい、その空間によって作り手から何かを引き出したい、ということに試みたギャラリーなのだそう。もうひとつは、もともとここの設計をする際に考えていた作業場・工房をイメージとした『アトリエ』。ショップギャラリーでありながら仕事場を兼ねられる場所を想定していて、キッチンつきのギャラリーでは個展をする作家さんが時に腕を振るったりすることも。こちらはどちらかといえばカジュアルで求めやすいものが並びますが、「ネットで買えるようなものよりも、希少な手仕事を応援するようなショップにしたい」と大塚さんは言います。
大塚さんのこだわりは、失くしてはならない手仕事の紹介とそれを作る人との繋がり。現代の暮らしでは廃れてしまった手仕事が再び活きる方向を模索しています。「例えば樽なんかの周りを締めるタガを作る職人さんがいたんですど、今ではそれが必要なくなってしまって。そういう技術が違う形で今の暮らしに残せるようなことができればいいと考えています」。また、モノというよりも、その人が持つものや技術に魅かれるという大塚さん。作品が素晴らしいのはもちろんですが、それを作った人そのものや、そのバックグラウンドに共鳴するからこそ、ここに置きたい、紹介して販売したい、そんな思いがあります。
もえぎの運営をする傍ら、大塚さんは空間設計MOREの主宰として、設計の依頼も受けています。「もえぎの仕事と完全に切り離すのではなく、ものづくりの作家さんとの繋がりができると、ここのものはあの作家さんに作ってもらおうとか、住まいや店舗などの空間の提案に活かすことができます」。例えば、ギャラリーにずらりと並ぶ作家ものの陶器の洗面鉢。家や店舗を持つ際に、大きな負担もなく、でも既製品ではないこだわりが出せる部分として最近人気だそうです。
やりたいことがありすぎて、まだまだ進められない、手が付けられていないこともたくさんあるという大塚さん。大量生産、工場生産が当たり前の時代に昔ながらの手仕事にもう一度光を当てる、もの作りに挑戦する若手を育てる場として、これからの益子になくてはならない存在になっているようです。(eMi.S)
住所/栃木県芳賀郡益子町上大羽2356
TEL/0285-70-8111
営業時間/11:00〜18:00(11月から2月は17:00まで)
定休日/水曜日
>ホームページ http://mashiko-moegi.com/index.php
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