「OTA GLASS STUDIO」が笠間市で工房をスタートさせたのは、2008年2月のこと。そして、同年開催の「第48回 日本クラフト展」にて、見事、経済産業大臣賞・日本クラフト大賞を受賞。なんという早業、離れ業、これを偉業と言わずしてなんと表せば…。
北大路魯山人の旧宅を移築した「春風萬里荘」を目標に、JR水戸線笠間駅から徒歩15分。春風萬里荘が見えたら、あと30秒。白いサインボードに「OTA GLASS STUDIO」の文字。小高い丘を見上げれば、小さな温室のようなギャラリーと質素な印象の板張りの工房です。そこが太田真人さんと五十畑真帆さんが主宰する「OTA GLASS STUDIO」。
「笠間は陶芸家もたくさんいますし、町全体が物づくりを受け入れてくれる自由な雰囲気がいいですよね。僕、育ちが水戸なので、工房作るなら、笠間かなと。それに空気、いいですよ。空気がうまい!!」と太田さんが笑顔を見せます。展示会などで笠間を数日離れ、戻ってくる度に、その“空気のうまさ”、“自然の偉大さ”を実感すると話します。
二人が出会ったのは、多摩美術大学デザイン科クラフト専修ガラスコース。しかし10代でガラス工芸を志すとは、かなり希少なのではないのでしょうか。「私は絵画などの平面ではない、立体的な表現に興味があったんです。それにガラスって家ではできない、工房という特別な空間でやっていく作業になるんじゃないかな…」と五十畑さんが気丈に当時を振り返ります。それに反して、太田さん、「僕の場合、陶芸を選択するつもりが、同じように窯を使うってことで窯業と間違えた。ほんと、入る科を間違えちゃったんだよな」と笑う。
しかし、太田さんの話、ウソのようなホントの話。大学時代、アート(芸術)とクラフト(工芸)を境界なく展開するガラス工芸運動(studio glass movement)を知り、同時にアートに立脚したガラス作品に興味が傾きました。卒業後の3年間、金沢は卯辰山工芸工房で、伝統的なガラス工芸の魅力やそのほかの日本古来の工芸にひたり、90年代半ばから笠間にやってくるまでの10年間は、東京でカフェを営んでいたそうです。
「自分たちや友達の作品なんかも展示できるスペースのある、ちょっとオーガニックなカフェだったんです。ここ10年は、ガラスを「やめる!」「やめない!」と言い切るほど真正面から向き合ってなかったですね。仲間から声がかかると作品を作ってみたり、声がかからないとしばらくご無沙汰しちゃったり」。それでも、二人はガラス作品との関係は切れることはありませんでした。“作る”というコト、ガラスというモノに、奥深いところで、心根のあたりで強く引かれるものがあったからなのでしょう。そして、一念発起。再び、ガラスと正面から向き合うことを決めたのでした。
「そうですね、工房ができて、窯に火が入って、なんか最初にガラスをはじめたときのような気持ちにも似たものを感じました。楽しいですね、今。自然と、がつがつ作っている自分がいるんですよ」。
さあ、今、二人が目指すガラスはアートなのかクラフトなのか、作品なのか日用品なのか…。もし“作る”“創る”“造る”、工房における作業に一番フィットするとしたら、どの漢字なのでしょうか。
「どれでもいいです(笑)。作るという行為や、作っていくものに対してはこだわりがあるんですけど。完成したものをどう感じるか、どう楽しむか、手にとってくれたみなさんにゆだねちゃいます。できるかぎり大事に、できるだけ永く、楽しんでくれれば、自分たちとしてはうれしいことですよね」。
帰りがけに、ギャラリーに置かれた白いコップを手にしてみる。本当に永く楽しめそうな、ずっしりとした“手作り”ならではの存在感。美しいのにタフな印象のフォルムも魅力的です。ガラスが、生きている、そんなふうに感じました。(pressman)
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