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[ゆたりストに学ぼう] 記事数:52

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前橋の中心から
広がる「まちづかい」

FRASCO
[群馬県前橋市]

Yutarist
MAEBASHI CREATORS ACTの皆さん

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 群馬県前橋市の中心街。大手百貨店の十字路の一角に、古びた青いドアのある建物があります。ここは、デザイナーや建築家が集まり、2013年4月からシェアオフィスとして使用している「FRASCO」。前橋の街で暮らすクリエーター達の基地です。

 「前橋を拠点に仕事をしていても、前橋以外の街へ出かけてそこで仕事の出会いがあったり、交流を深めたり…。以前は前橋で集まることが非常に少なかったんです」
 そう話すのはプロダクトデザイナーの手島彰さん。FRASCOを設立したMCAという団体の代表を務めています。

 MCAとはMAEBASHI CREATORS ACTの略。前橋に住んでいるのに、前橋で仕事をしているのに、なぜ前橋に拠点をつくる人が少ないのだろう―。そんな疑問とともに元々交流のあった前橋のクリエーター達が集まり、昨年末にMCAを結成。その後、“飛び石のように進み”FRASCOがオープン。コンセプトは「まちづかい」です。
 前橋と高崎という街が並んで立地する群馬県ならではの事情も相まって、いままで前橋でクリエーター達が集まる場が持ちにくかったのに加え、最近は20代以前の若者も前橋の街で遊ぶ機会がどんどん無くなっているそうです。
 手島さんは続けます。「街中で遊ぶ体験をした若い世代がいなくなるということは、街へ戻ってくる人が減ってしまうということ。MCAメンバーがFRASCOを打ち合わせや展示スペースとして使うことにより、今まで前橋に足を運ぶ機会が無かった人に、少しでも前橋を知ってもらえたら―」まさに、その行動こそが、彼らの発信する「まちづかい」なのです。

 「前橋の街が寂しいという現状は、ネガティブなようにも感じられますが、考えかたを変えればこれほど可能性を秘めている街も少ない。新しい使い方だったり、自分たちの持っているスキルを発表する場だったり、そういう場所を産み出したい」と語るのは、MCAのチーフディレクターで建築家の橋本薫さん。
 平日は主にシェアオフィスとして使い、打ち合わせなどに利用。週末になるとメンバーそれぞれのスキルを活かし、ワークショップや展示スペースなどへと変化します。お店のように直接消費に関わるのではなく、例えるなら少しずつ人の流れを引き寄せるような、街へのアプローチとも受け取れます。

 週末の夜。この日はMCAクリエィティブディレクターの村井泰浩さんによる、椅子のリペアワークショップが行われていました。村井さんは近くの家具店、Lecon(ルコン)の店主ですが、その商売方法が少々特殊。長い間使える家具だけを扱い、さらに年月を重ね傷んだ椅子の張り替えや補修をする、知る人ぞ知る家具屋さんです。
 「今は大量生産、大量消費の時代ですが、私のお店は思いきりその逆ですよね。この前リペアを習って帰って、早速自分の椅子をオイルし直しているお客さんもいて。補修の方法さえわかれば、物との付き合いかたもきっと変わると考えています」
 オイルや紙やすりなど、身近な道具を使い補修をするのですから、方法を知れば一般人にも敷居の高いことではありません。丁寧に紙やすりをかけ、一皮むけたように白い肌をした椅子が佇んでいる姿を見ると、物には人間が手を加え、長い間使うという選択もあるのだ、と改めて意識させられました。

 そして、また別の夜。この日は、本を持ち寄ってお気に入りの一冊を語りあう「シイナイト」の日。本業はインテリアコーディネーターで、MCAでは書記、という肩書きの椎名真義さんがつくる、大人の憩いの場です。
 テーマは毎回違って、この日の題材は「大人のための子供の本」。初対面の大人達が、本を題材に交流をする会というと、一瞬入りにくさを感じる人がいるかもしれませんが、心配はいらないようです。
 始まって一時間が経つころには、椎名さんのゆるやかな語り口に誘われるように、次第に打ち解けてゆき、熱のこもる意見が交換されていました。次回もまた、本を持った大人達が夜な夜な集まる姿が―どこかチャーミングな、すこし不思議な本の会が―、粛々と開催されることでしょう。

 僕らの企画は少々マニアックだ、と自称する彼らの今までのイベントは、県内の魅力的な方々やその仕事を紹介するものなど、少数でも同じ価値観を持つ人を集めるような、そんなイベントだそうです。また彼らは、この場所を持ったことをきっかけに、街で商売に携わる人々の“内側”に触れたような気がする、とも語っていました。
 直接消費するだけでなく、クリエーター達が自ら街をフィールドにして遊び、街をつかう「まちづかい」。彼らの試みは、若い世代はもちろん街の住人達にも影響を与えるかもしれません。また一つ、街に新しい魅力がキラリと、光りだしました。
(E.S)

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