水戸芸術館のほど近くにある「trattoria blackbird」。
鳥かごをモチーフにした金工の看板、窓越しにはワインのボトル。立ち飲みのテーブルが置かれた入口は、外国の小さな路地にありそうなトラットリアの雰囲気です。
シェフの沼田健一さんは、教員を目指して大学に進学し、在学中のアルバイトをきっかけに料理の道を志しました。大学卒業後、2005年D&DEPARTMENT PROJECTに参加。DINING事業部料理長として活躍した後、2008年12月水戸市で「trattoria blackbird」をオープンしました。
blackbirdの日課は、毎朝沼田さん自ら市場へ出向き、地元茨城の素材や、新鮮な食材を仕入れるところから始まります。その食材を元に、「今日の黒板」を書く作業に取りかかります。
グランドメニューもありますが、その日市場で出会うその時期その季節の旬の食材が何よりも美味しく、また身体にも優しいので、結果的にメニューは食材に合わせて毎日変わるのだと言います。
今夜の黒板をスラスラと書く沼田さん。その姿に驚いていると「毎日書くと慣れてきます」と。その横ではバリスタの田口さんがギターを奏でます。「食と音楽」が自然体で解け合うのもblackbirdらしい日常のワンシーンです。
2012年8月からはクッキングスクールを開講。。。。「お客様と一緒に成長できるお店でありたい。良い物をお客様に気づいてもらえるような一歩を踏み出してみたい」。そんな思いからクッキングスクールをはじめたそうです。外食産業が低迷する不況が続き、家庭で調理をしたり、買ってきた物を食べる「内食」が注目されている昨今。内食産業への参入も見据え、「blackbirdを長く続けていく為にも、今やらなくちゃいけないと思った。」と話してくれた沼田さん。
「お客様に美味しいものを知っていただく機会をつくったり、食材を選ぶ基準を磨いていただいたりできないか」という思いから2012年11月には水戸公設市場で教室を開催しました。「いい食材を使わないと美味しいものはできない」というのが、沼田さんのポリシーです。
受講者と場内を歩きながら、お店のまわり方や美味しい魚介類の選び方などを教わりました。一般の人にとっては敷居が高いと思われる卸市場ですが、今ではその鮮魚店に買い物に行き、教室で習った料理を家庭で楽しんだりと、教室を通して、卸市場がぐっと身近なものに感じるようになった参加者も多いようです。最近ではfacebookで情報交換をする受講生も増えているそうです。沼田さんの想いが響き、広がるっているのが感じられます。
前職のD&DEPARTMENT PROJECTのナガオカケンメイさんの影響もあり、ものごとの仕組みを作るのが好きなのだと言います。「例えば、今まで料理をせずカップラーメンを食べていた人に『料理っていいな』と感じてもらえたり、家庭でもレストランような美味しい料理を作っている人が増えたりするような料理ブームを起こせたらいいいと思うんですよ」。blackbirdのつくる食事や料理教室を通じ、そんな発信を続けていきたいと沼田さん。「食事は毎日の事だから、おいしいものを食べてほしい。同じ100円なら、もっとおいしい100円にしたいんです」。この情熱が沼田さんを突き動かす一つの原動力になっているようです。
今後は、水戸の生涯学習センターでの講師を務めるほか、料理を通じて人との交流を広める中で、いい音楽が流れ、にぎやかな温かい雰囲気の中で、何気ない会話を楽しむ…。そんなblackbirdの雰囲気を保ったまま、活動の輪はますます広がります。
「いい食材を買って、美味しいものを手作りしてみませんか?」という大人や家庭に対する提案をしながら、美味しいものを「安心で健康的に楽しく食べる」というblackbird流の「食育」を広める沼田さんの姿勢は、学生時代目指していた「先生」の温かい姿勢と、高い志を感じます。これからblackbirdがどのように羽ばたいていくのか、とても楽しみです。(K.KOYAMA)
ホームページ http://blackbird-mito.com/
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