「’大切に使おう’と思えるものが生活に1つ増える度に、価値観が大きく変化する事に気付いたんです」と、陶芸家のsoudoさん。
黄金色に輝くすすき野原の真横をゆったりと流れゆく利根川。風力発電と白波、美しい砂紋が続く海岸砂丘。soudoさんの工房は、そんな自然風景の広がる茨城県最東南端の町、神栖市にありました。
工房『soudo』とは、「草」と「土」。地に根を張り立ち上がる。そしてあらゆる風を受け止め揺れ続ける。そんな力強い草のようにしなやかに作品を作り続けたいといった想いが由来です。
作品に出会ったのは、鹿島神宮参道で開かれていた、かしまのくにマルシェ。夏のカラッとした強い日差しに、砂浜、波を彷彿とさせる手触りのカフェオレ・ボウル。川流を思わせる大胆な刷毛目の平皿。まさに神栖の風景を汲んだような温かさ、強さが印象的でした。
艶味を抑えた独特な質感、色合い。これらについて尋ねると、雑木や草の灰を混ぜた手作りの「灰釉」を使用しているとの事。草木は、工房近くで集めたものや、購入したものまで。凝りに凝って作った釉薬が30種まで増えた時期があったものの、試行錯誤の結果、現在は10種ほどに落ち着いているそう。
そして作品の中でも特に人気の「粉引き」と「鎬(しのぎ)」を組み合わせた器。白色がベースの「粉引き」は、料理映えのする独特な温もりと味わい。土を削る「鎬」の技法には、すっきりとしたシルエットを生み、器の重量に軽さを出すといった長所も。また器を重ねて収納できるよう、デザインにも随分と改良を重ねられてきたそう。
クラフト市への参加、関東各地で器展の開催など、精力的に活動されているsoudoさんですが、陶芸家の道を歩み始めたのはわずか2年ほど前。「人生で初めて『手を止めたくない』と思うものに出会った」その強い気持ちが後押しとなり、会社員を辞め、昼は作品作り。夜はアルバイトで収入を得る日々が続いたそうです。
そしてアルバイトの仕事でキッチンに立った事も、作品作りに影響を与える大きなきっかけに。食材選び、下準備、そして料理へ…。時短、手軽さが優先される時代の中で、手間を掛ける事の意味。手を掛けて作られたものと生活を共にする事で生まれる心の豊かさに気付いたと言います。
「世界でたった1つの器には、愛情を込めて作った手料理。それ以外は考えられないですね。」
日常でも健康的な食材を取り入れるようになり、生活はすっかり朝方に。身の回りに置くアイテムも、良質でずっと長く付き合えるものへと変化したそうです。
現在は陶芸教室も開催。作品作り、と意気込むのではなく、ただシンプルに土に触れて、自身の心に向き合ってもらう事を目的としているそう。そのため1回の体験のみでの参加も可能。参加スケジュールもすべて、生徒さんにお任せなのだとか。
使えば使うほど愛情が深くなる器。それは「大切にしたいものに真摯に向き合う」凛とした思いが原点でした。(M.Nayuki)
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