東京・渋谷の東急ハンズを中心に、20年以上の長きに渡りロングセラーを続ける帆布バッグブランド「須田帆布」。その須田帆布が工房をつくばに移したと聞き、代表の須田さんを訪ねました。
「じっくり創作に打ち込める工房を作りたいとずっと思ってきました。つくばを選んだのは懐の深さ、豊さに惹かれたから。この街は面白い、とピンときましたね」と須田さん。長年バッグ作りを支えた家族の意見も一致。1年かけて土地を探した末に現在の倉掛の地に出会い、懇意にしている建築家の手によって「須田帆布らしさ」を追求した工房&ショップが完成しました。
須田さんがバッグ作りを始めたのは約30年前。もともとは製紙会社のサラリーマンでしたが、雑貨好きが高じてフランチャイズの雑貨店に転職。そこでの店長経験や、当時親しかったミュージシャンと組んでの雑貨デザインなどを経て、自らデザインしたバッグの販売に辿り着きました。
「当時は販売ルート開拓のノウハウもなかったから、その頃オープンしたばかりの東急ハンズに直接売り込んだんです。そうしたら、今までにない形と発想のバッグだ、と契約にこぎつけることができて、販売初日から完売。縫製やバッグ作りを勉強した経験もなかったけれど、それが逆に良かったらしい。素人ならではの強み、そこが須田帆布の原点です。素人ならではの感性、遊び心、冒険心、使用実感。プロとか素人ということより、自分の個性をいかに長く『継続』できるかどうかが何より肝心だと私は思っていて、須田帆布はその『素人ならではの感性』という個性をずっとキープしてきた。それが現在も須田帆布が多くの方に愛していただける理由だと思います」と須田さんは語ります。
バッグの制作工程についても「ただやり方がよくわからなかっただけ」と須田さんは笑いますが、通常のバッグより多くのパーツに分かれた帆布を使い、表からは見えないところまで丁寧に縫い込まれたバッグは、頑丈、というより屈強、という言葉がふさわしいほどのタフさ。同業者に「須田さんは手の抜き方を知らない」と呆れられるほどの「まんべんない丁寧さ」と、須田さんの頭に次々と浮かぶ「須田帆布にしか出せない匂いと形」。取材当日にも、7年もの間使い込んだという年季モノのバッグの修理依頼が届きました。丈夫だから長く使える、長く使ったから愛着がわく、そして修理してまた使う・・・。全てのモノが簡単に手に入る今の時代において、私達が忘れかけている「愛着」という言葉が、須田帆布と使い手の間では確かに息づいているのです。
そんな須田さんには、ひとつの夢があります。それは「つくば座」という星座の中のひとつの星になること。「つくばには志を持ってそれぞれの分野で力を発揮している、小さいけれど輝いている店がたくさんある。つくばの衣食住を豊かにするそれらの店がさらに増えて、そして繋がって、つくばを愛する星の集合体=つくば座、として力強く輝くことができれば・・・」と須田さん。独特の魅力に惹かれて才能ある人が集まってくる街、つくば。モノ作りへの想いと、つくばへの愛着を語る須田さんの姿は、すでにつくば座のひとつの星にふさわしい輝きに満ち溢れていました。(M.M)
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