なだらかな丘陵地帯と田園とが緑の濃淡で境を織りなす石岡市八郷地区。1974年に「安全な食べ物を自分たちの手で作ろう」という社会運動の一環として「たまごの会」が発足しました。設立当初から大学教授や社会活動家、主婦などが中心となって会を運営し、有志が住み込みで農園の管理運営にあたっています。以来35年の星霜を重ね、農業に対するさまざまな取り組みが行われ、現在の「八郷農場」としての形が出来上がってきました。
納屋と呼びたくなる倉庫の壁面には、使用済みとなった農具でオブジェが飾られています。雑然としているようで、実は合理的な使い勝手の良さが感じられる建物の配置。施設の中心となる山小屋風の共同棟には使い込まれた台所用具が並び、農作業の疲れを癒すための楽器類もエイジングの進んだ建物と同化しています。
農場に住んでいるのは鈴木文樹さん、田中泰斗さん、田村奈々さん、茨木泰貴さんの4人とニワトリ700羽、豚40頭、ヤギや犬など賑やかな面々です。元々消費者グループが作った自給農場としての性格を持っているため、公共性を兼ね備え、外に対してオープンなところから、都内から研修生や農業体験者が一年を通じて訪れてきます。農場を訪れた農業体験者は、寝食をともにして農作業や養鶏・養豚の作業を行い、最後には鶏を絞めて、身をもって食と農の現実を見つめます。
広い敷地内には、豚の飼育舎の上に人が住むという実践的な建物や建築途中のドームハウス、種苗を育てるハウスなどもあり、近くの畑では四季に合わせた野菜が育ちます。ここでの農業は有機栽培が基本で、その有機栽培法は同地区の農協に有機部会ができるなど、地元有機農業の発祥の地となったことはあまり知られていないことです。
共同生活の中で、食事当番が畑からその日の食材を採ってきてみんなの食事を用意し、ほかの人たちがそれぞれの農作業に従事する。生活をともにすることによって生まれる厳しい規律などは無いに等しく、緩やかな紳士協定で各自の時間が守られています。自然の中で自然に生きる、自然な時間がゆったりと流れていいきます。
「アカデミックな世界から農業の現場へ入って来る人などもいますが、市民が自分たちの生活を見直すための農業の入り口でもあるんです」と鈴木さんたちは話します。エコビレッジの一面も見せる八郷農場へ住み込みで生活体験するのは、圧倒的に女性が多いとも言います。参加者らのここでの体験が新たなコミュニケーションを生み、日本の食への関心を高めていきます。それは押しつけではなく、実体験から語られているだけにより説得力を持つものでしょう。
爪の間に泥を入れて野菜を収穫し、ニワトリの首を締めて鶏肉を味わう-食と農の切っては切れない関係は、自らの手で作って食してみることで、喜びや感謝といった感情も産み出していくのではないでしょうか。
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