緑の山々に囲まれ、清流が流れる典型的な日本の山野風景のなかに居を構え、日々農作業や家畜の世話を焼く。その合間に川で魚をつかみ取り、地域の人々と酒を酌み交わす―。
常陸太田市(旧里美村)に約2400坪の田畑を借り、農薬や科学肥料を使わない有機農法による野菜づくりを実践しているのは北山さんご夫妻です。
ご主人の弘長さんが有機農業を目指すきっかけとなったのは、学生時代、アメリカ・サンフランシスコに留学していた頃に出会った当時はまだ珍しかったオーガニックフードと自然と共存しながら暮らすアメリカの人々との触れ合いからでした。そのまま現地のデザイン会社に就職し、後にドイツへ転勤。ヨーロッパの環境先進国での精神的に豊かな暮らしがよりいっそう弘長さんの農業への関心を高めていきました。帰国後、WOOF(Willing Workers On Organic Farms=有機農場で働きたいと思っている人たち)という制度を利用して、全国の有機農業を実践している農場やバンガローで働いたのち、友人の紹介で常陸太田市へ。まったく見知らぬ山里で住居と農地を借り、理想とするエコ・ヴィレッジづくりの一歩がスタートしたのです。現在では「まったり~村の小さな農園」として、米や野菜などを無農薬で栽培、東京を中心とした首都圏の会員さんに新鮮な有機野菜を週1~2回宅配便で届けています。
1年前にパーマカルチャーの講座で知り合った奥様の郷子さんが加わり、現在はご夫婦で土に触れながら、地域にすっかり解けこんでいます。「消防団にも入ったんですよ、地域活動も楽しんでやっています」と弘長さん。地域内で有機農業を営む仲間で作る「野良の会」に加わり、月に1度の勉強会に参加したり、お互いの農作業を手伝うことも。また、ことしは都会の子供たちを田んぼに招き、いまでは珍しい水田の動植物を観察する活動を支援しました。
気取らない格好で穏やかな表情で話す夫妻に、ヤギの鳴き声を聞いた近所の人が「ヤギがよばっているよ(呼んでいる)!」と気さくに声をかけていきます。
将来は昔ながらの農機具を使った農作業や循環している生活を体験しながら宿泊も出来るような「生きた郷土資料館」を作るのが夢だそう。
「(農作物は)作れば作るほどお金にはなるけれど、命はお金ではかえられない」。弘長さんの言葉には、大地に根を張った人ならではの力があふれていました。
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(登録第5290824号)