かつて公園だったという広々とした小高い丘の敷地の中に佇むそのギャラリーは、ハコからその中のもの全てご夫婦ふたりの手で作られたものでいっぱいでした。
もともとフレンチのコックだった田村さんは益子に転居し、ペンションで料理を任され、料理をする傍ら廃材や丸太での木工や野菜作りをしていました。しかしその仕事を離れるときに、またこのまま雇われる身になることに小さな疑問と抵抗を抱いたということです。毎月給料をもらってやっていく仕事は、安定して安心だけど、ただそれがずっと続くだけで・・・、何かできることはないかと思って立ち上げたのがこの「WORKSHOP770」。30歳で独立し、陶芸家である奥様ともの作りの場所を築いたのでした。
陶器や木工、みつろうキャンドル、牛乳パックをリサイクルしたハガキ、アクセサリーなどを作り販売を始め、その後「ギャラリーWORKSHOP770」をセルフビルドで設立。閉園になった幼稚園の廃材を使い、独学でギャラリーとなる建物を建てたのです。
「今は素人でも建てられるっていうような本がたくさん出てるから」と田村さんは笑いながら言いますが、それでもそう簡単にできるものではありません。多少大工さんに手伝ってもらうことはありましたが、ほぼひとり、一年がかりで作りあげたとのこと。倉庫にしまい込まれていた教材用の大きなそろばんが欄間として壁につけられているのも、また手作りの遊び心とセンスが滲み出ています。ギャラリーに置かれているものは奥様と二人で作られている作品がほとんど。仕入れているのはもともと自宅用で使っていたという益子の作業所で作られる石鹸と宇都宮で昔ながらの圧搾法で搾られた3種類の食用油のみ。この油も他に小売はしていないものなので、缶のラベルは奥様の版画で作ったというのですから細かいところまで本当に手がかかっています。
それから昨年、今度は独学で天然酵母パン作りをはじめ、国産小麦粉や地元の食材を使ったパン工房「Boulange770」を立ち上げました。
はじめからいわゆる[スローライフ]を意識してここまで来たわけではなく、「何か自分でできること、それはもの作りだった」というのがスタートだったから、無理なく自然の中の仕事と暮らしを手作りしながら楽しんでいる田村さん。こんな風に自分スタイルの仕事を求めて模索している人のためにと「もうひとつの働き方ネットワーク」というNPOの活動も行っています。
まだまだ広がる「WORKSHOP770」の在り方は、もの作りの楽しみと愚痴をこぼしながらもなかなか日常のサイクルから抜け出せない多くの人たちの背中をそっと押してくれる自由であたたかな空気を持っていたのでした。
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