「職人の心意気が息づく、1分間のストーリーがある」と、フランスのからくり人形「オートマタ」の魅力を語る堀江さん。日本では数少ないオートマタ作家で、限りなく人間に近い繊細なしぐさを表現した技術力に、高い評価を得ています。
オートマタは、18〜20世紀前半フランスやスイスで時計職人が貴族のために作ったといわれるもので、ぜんまい仕掛けでオルーゴールの音色に合わせて様々な動きや表情を見せます。堀江さんがオートマタと出会ったのは、時計メーカーの職人として働いていた1990年。スイスのサンクロアに出張した時、オートマタ作家のミシェル・ベルトランさんのアトリエを訪れたことが転機となりました。アトリエには、オートマタのコレクションや作りかけの作品が並べられ、それを見た堀江さんは大きな衝撃を受けたといわれます。
「呼吸、居眠りなど、人形たちの生々しい動きはショックに近い感動でした」。
オートマタの構造は時計とほぼ同じ。堀江さんはその仕掛けを見抜き、帰国後は仕事の合間をみてはオートマタの制作に取り掛かりました。機械的な技術力に加え、人形の頭や手、足など造形的な部分もすべて手掛けます。また、1体で20、30ほどを使う歯車、ネジなど金属部品も作ります。すべてを組み合わせ、服を着せて実際に動かしてみると、思っていたような動作をみせない箇所も生じ、微調整を繰り返しながら、完成させていくといいます。
そうした制作活動が実を結び、1999年にランベールの作品を復元した第1作「手紙を書くピエロ」を完成させました。2004年には、スイスの世界最古の時計メーカー「ブランパン」からオートマタの制作依頼を受け、「時計師(オロロジェ)」を1年がかりで完成。これは、優雅な貴族の服を身にまとい旋盤を回して時計を作るオートマタで、これを機に堀江さんの優れた技術力は世界からも脚光を集めるようになりました。独立後は、制作活動のほか、全国各地で展示会を開くなど、多忙な日々を過ごしています。奥さまとともに自宅で開く喫茶店では、堀江さんの作品を展示し、予約をすれば堀江さんがオートマタを動かしながら解説をしてくれます。
「オートマタの技術は失われつつある文化のひとつ。その伝統を伝えるために、時計職人として培った技術が役立つなら嬉しいことです。これからは遊び心のある作品も送り出していきたい」と。創作意欲に燃える堀江さんのオートマタの世界はますます広がっていくことでしょう。(K.K.)
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