第一話〜第十九話はゆたり出版の「かさまのうつわ」に再編集し収録されています。「かさまのうつわ」はネット通販、書店、販売協力店でお買い求めできます。詳しくは本とゆたりをご覧ください。
春の笠間の陶器市 陶炎祭(ひまつり)の200を超える出店の中で、お客さんの「かわいい!」の声がひときわ高く湧き起こるのが小島佳代さんのブースです。
賞賛の声を一身に浴びているのはそれぞれ違った植物を頭から生やし、愛らしい表情で見る人を眺める「こじこじ」。植木鉢、と言ってしまうことのできない、もっともっと生き物に近い印象を与える植物のうつわなのです。
小島さんがこじこじを作り始めたのは東京芸術大学デザイン科に在学中のことでした。「授業でいろいろ課題が出されるんですがそれに対する提出の仕方は人それぞれで、立体であったり、グラフィックであったり。わたしも鉄やアニメーションなどいろいろな手法で制作をしました」
さまざまな素材で制作をする小島さんの中には植物への思いが一貫してありました。
「植物が好き、というのがずっとあって、植物に触れたことのない人が、何か植物と接するきっかけになるような作品が作れたらいいなと考えていたんです」。それがこじこじ誕生の源でした。
鉄を使った植物のうつわも制作しましたが、陽に当たると熱をもってしまうことなどから陶芸にシフトしていきます。
「芸大には陶芸科もありますがデザイン科だったし陶芸ってどうやっていいかまったく知らなくて。粘土で形を作ったのはいいのだけれど窯をどうやって借りるかも分からなくて、庭で一斗缶に炭を入れてそこで野焼きしたのが始まりです。爆発したり、うまく焼けなかったりするとじゃあもう少し乾かしてから焼いてみようとか、砂をいれたらうまく焼けたとか、手さぐりで焼き物のこじこじを作ってきました」
ここで陶芸の本などでその手法を調べるかと思いきや、小島さんのユニークなのはなんと考古学方面に調べを進めていくところ。
「考古学で焼き物のやり方を調べたので、本当に私のやっていたのは縄文土器の作り方でした(笑)」
心の中の思いを表現するために、その手法を純粋に追い求めている小島さん。
大学を卒業して銀座で開いた二人展にも、独自の手法で制作したこじこじ達が並びました。
「それをほしいって言う人が現れたんですが独学で作った焼き物がちゃんと焼けているのか、いったい何年もつのか分からず積極的に売る気になれなかったんです」
そこで小島さんは笠間の茨城県工業技術センター窯業指導所の門をたたき、2年間学びます。それはきっと、独学で築いてきたご自分の陶芸への答え合わせのような2年間だったのではないでしょうか。
こじこじには、小島さんが大学3年のときに作ったキャッチコピーがあります。
「君がいなきゃ、息もできない」(※全文「植物がつくる酸素がなくては、人は生きていくことができない。都市の中で、植物をそばに置こうとするわたしたちは、無意識に酸素を求めているのかもしれない。頭に小さな大地を持つ変なやつらとの暮らし」)。このコピーとそれに添えられた文章のなかに、小島さんが表現したいもののすべてがあります。
「こじこじは、植物が歩いて人のところまで行くイメージ。“最近疲れてるんじゃないの?酸素足りてる?”って言いながら。動物は動けるけど寿命が短い。木などの植物は動けないけど、寿命が長い。その中間の生き物みたいに作りたいです」
あの、独特のほほ笑みとあどけない表情はどうやって作っているんですか?
「作っているというより、毎回一つひとつ手ひねりでうつわの形までつくったあとまだ顔のない表面を見ながら「どこにいるかな?」と探すんです。目っぽいところ、鼻っぽいところはどこかなって。一つひとつ表情も少しずつ違うんですが、意図的に変えるわけではありません」
まるで、土の中に元々いるこじこじを小島さんが探し当てているよう。
そこに今度は植物が植えられることで、こじこじの表情がさらに多彩さを増します。
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植物工房 四季館
笠間の共販センター向いにお店を構える「植物工房 四季館」。山野草や苔盆栽、多肉植物・サボテン、そしてエアプランツ等を手づくり陶器鉢に植栽(四季館では植‘彩’と書きます)して”小さな森”を表現しており、こじこじもさまざまな植彩を施されてこのお店で販売されています。
「小島さんとの出会いは面白いの。うちの犬が鎖をつけたまま脱走したのを小島さんが見つけてくれて、こちらの犬じゃないですか?って報告してくれたんですけど、そのまま捕まえるのまでお願いしちゃったんですよね。雨も降っていたのにね」と笑いながら話してくださったのは 四季館の岡崎睦子さん。
窯業指導所にいるころから小島さんの作品を見てきた岡崎さんは、工房に並んだ新作のこじこじ達を見て「あ、これはちょっと口が前と違うわね」などと一瞬でその差異を言い当てる“目利き”です。
「こじこじに植えるものは、ちょっと特別に用意しますね。種から育てたり、多肉でもあまり売っていない小さめの苗を探したり」。岡崎さんの愛情こもった植栽を頭に載せたこじこじには、多くのファンがいるといいます。
「こじこじ目当てのお客様は、それはもう選ぶのに長い時間をつかいますよ。表情も微妙に違いますから、迷って迷って買っていかれます」
どちらかというとシャイな小島さん、ころころと良く笑う朗らかな岡崎さんの前ではとてもリラックスしていて、その会話も気ごころ知れた友達そのもの。
「こじこじって植えるの難しいわよ、入り口がちょっと狭いし(笑)」と岡崎さんが言えば「でも最近、こじこじの植込み進化してないですか?広葉樹のバリエーションも広がっているし」と小島さん。「こじこじにこんなふうに植込みをしてくださるお店がこんなに近くにあって(小島さんの工房と四季館は、徒歩3分の距離です)うれしいです」
太陽のようなよき理解者の岡崎さんのもと、小島さんが光合成をしているような印象を受けました。
最後に小島さんにこじこじを、どんなふうに使ってほしいですか?と伺いました。
「話しかけるように植物の世話をしてほしいですね。こじこじに何か植えて水やりをすると、目のところから水が流れて嬉し涙に見えたり、感情移入したくなると思います。こじこじをきっかけに植物に興味を持つ方も多いんです。お世話が楽しくなるといいなと思います」
小島さんの止むに止まれぬ植物への思いが形を求めて生まれてきたこじこじ。
今にも言葉がこぼれ落ちてきそうなそのくちびるから聞こえるのは、限りなく優しい癒しの問いかけなのだと感じます。
(しばたあきこ)
茨城県笠間市笠間2218-8|Tel.0296-71-5107
営業時間|11:00~17:00
定休日|木曜定休(そのほかイベントなどでお休みすることもありますのでお電話やHPなどでご確認ください)
>植物工房 四季館ホームページ http://shikikan.jp/
>小島佳代ホームページ http://www.coji-coji.com/
「ゆたり」は時の広告社の登録商標です。
(登録第5290824号)