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第一話〜第十九話はゆたり出版の「かさまのうつわ」に再編集し収録されています。「かさまのうつわ」はネット通販、書店、販売協力店でお買い求めできます。詳しくは本とゆたりをご覧ください。


[かさまのうつわ] 記事数:19

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第十回 庄司健さん

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 2013年春にオープンしたおかってカフェ。水戸市の中心市街地から20分ほども車を走らせた、畑や小さな集落を通り抜けた先にそのお店はありました。

 店内はカフェとギャラリーに分かれていて、ギャラリースペースにはさまざまな陶芸家の作品が並んでいます。その中ですっと引きつけられたのが、クリーム色の茶器セットでした。細身のポットと小ぶりのカップの洗練された佇まい。マットな質感ながら静かに発光しているような釉薬の表情。聞けば、カフェがオープンする際に特注で作ってもらったおかってカフェオリジナルの茶器セットだということ。作者は笠間で作陶する庄司健さんでした。





 庄司さんの工房は笠間市片庭の見晴らしのいい高台にあります。工房に向かう最後の数メートルは一方が山、片方が急な斜面になった細い砂利道。あまりの隘路(あいろ)に進退窮まって冷や汗をかきつつハンドルを握る私に、庄司さんは誘導してくださりながら「今まで転落した人はいませんから」とのんびりとした笑顔。思わずこちらも引き込まれて安心してしまいます。無事にたどりついた工房にはコーヒーの香りがただよい、乾燥途中の作品が並んでいます。





 宮城県名取市出身。高校までを宮城で過し、その後山形にある東北芸術工科大学陶芸科に進んだ庄司さん。「2年生からの専攻科でうるしや金属などがあるなかから陶芸を選択しました。平面よりも立体がやりたかったのと、彫刻刀で彫るような作業が好きだったというのもあります。卒業後、陶芸科を出てもまったく違う道に進む人もいるなか、自分はどうしようか…と考えていました」
 転機は卒業間近に体験した薪窯での窯焚きでした。「初めて教授の所有する薪窯での窯焚きをしたとき、薪をくべる、火を見つめるということに心の奥底というか、自分の中にある原始的な部分が動かされる感覚を味わいました。その時まさに『これは!』と思い、焼き物の道に進むことを決めたんです」。生の炎に心をつかまれ、卒業後笠間で作陶することを選びます。各地から作家が集まる笠間の空気は良い意味で軽く感じられたそうです。
 陶芸家・伊藤東彦さんの元で5年間修業。どんな5年間でしたかと伺うと「たたら()を多くやらせてもらいました。湯飲みを作ったり、花器を作ったりもしましたが、後は…畑仕事とか。草取りとか(笑)」とひょうきんなお答え。その後独立して、現在の場所に築窯します。
 使用している土は、信楽などいろいろなものを使ってきたそう。「笠間土は少しやっかいですね。収縮が大きいし、変形しやすい。でもせっかく笠間にいるのだからこれからはなるべく笠間土で作っていきたい」と言います。





 おかってカフェで見せていただいた茶器セットのほかにも、さまざまな作風の器を作る庄司さん。「工芸であることを意識して、飾っておくだけではない使い勝手の良い器であると同時に、美術的要素、質を追求したいなと思っています」。アトリエにはまるで春の野原のようなおぼろな色合いの絵付けの皿、一瞬漆器かと見まごうような朱色と黒の色合いの碗などが並んでいました。その色合いの美しさ、形の繊細さは作品だけを最初に見たならば女性作家によるものかと思わせられます。
 「うつわを作るというのは、そのことだけじゃないと思うんです。私は気持ちを使って作りたい。作陶以外の、例えば対人関係においてもいつも相手に敬意を持っていたいんです。いろんなことを雑にしたくない、一つひとつをなるべく丁寧にと考えています。作風には生き方の蓄積、その人の生き方が表れると思っています」




おかってカフェ





 水戸市鯉渕町のおかってカフェ。オーナーの須藤利幸さんと井川美也子さんが手作りでオープンさせた、森と畑に囲まれたカフェです。地元鯉渕で、またお店の目の前にある自家菜園で採れたレタス・カブ・大根・人参などの新鮮な野菜がふんだんに使われたワンプレートのランチセットやカレー、手作りのスイーツのほか、吉祥寺「おちゃらか」とのコラボで生まれたオリジナルフレーバーティーなどメニューが豊富。須藤さんのおいしいお料理、井川さんのおおらかで明るい人柄に触れたくて小さなドライブをしてお店に通うお客さんも少なくありません。

 店内は、照明はクラフトBORO×BOROさん、机や棚は美術家の鈴木りんいちさんら店主の気心知れた仲間の作品で埋め尽くされています。「お店は、仲間や近所の人に助けられてオープンしました。ギャラリーに置いてあるものも、自分たちとつながりのある作家の一つひとつ手作りのもの。なんでもネットで買える時代だけど、だからこそここでなければ買えないもの、ここでなければ食べられないものを用意したいと思うんです。お店は決して分かりやすいとは言えない場所。わざわざここに来てくれる価値がある場所にしたいと思っています」
 お二人が庄司さんに出会ったのは、音楽をやっている須藤さんが参加したイベントがきっかけだったそう。
 「庄ちゃん(庄司さん)とはここ1〜2年の付き合いなんだけど、とにかく面白い人。周りを笑わせるし、会話に独特の間があって…。そんな庄ちゃんの器、最初にお茶碗を見てびっくりしたの。なんということもないシンプルな白いお茶碗なんだけれど、この繊細な作りは何なんだろうって。京都のものみたいな、上品な感じがしたんです。こんな面白い人がこんな細やかな器を作るんだって(笑)とても気に入って、お店のオリジナルの器をぜひお願いしたいと思いました」と井川さん。「粉引の鉢なんかも、ものすごく美しくてここに煮物を盛りつけたらどんなにいいだろうって思ったのよね」

 おかってカフェの茶器セットは色違いの3種類があります。白いマット釉、うっすらとクリーム色がかってみえる白化粧、そして鈍色に光る銀彩のもの。
 「この銀彩のポットは、ほかのものより少し値段が高くなってしまうんだけれどアトリエで見せてもらった銀彩の経年変化したものがとてもかっこよくて、作ってもらうことにしました」と須藤さん。
 「人柄っていうのは作品に表れる。庄ちゃんの器は品が良くてやさしい。お店で扱うときには、もちろん作品そのものもしっかり見るけれど、やっぱり最後は人柄にひかれて『この人に頼もう!』って思います」





 作風には作り手の人生の蓄積が表れると考える庄司さん。作品には人柄が表れるといい、うつわを愛でるおかってカフェのお二人。作り手と使い手の思いが呼応して出来上がった茶器セットを使う愉しみは、「ここでしか味わえない」ことの一つに加えられるのではないでしょうか。(しばたあきこ)

※粘土を板状にして形を作る技法







DATA:

おかってカフェ

茨城県水戸市鯉淵町4648-1|Tel.029-259-3341
営業時間|平日11:30-18:00(L.O.)
土・日11:00-18:00(L.O.)
定休日|月曜・火曜

>ゆたり掲載記事はこちら http://www.yutari.jp/club/CafeRestaurant/cC140225.htm





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