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「ひとが輝くまちの学校」はゆたり出版の「ゆたり文庫 地方に暮らす。シリーズ02 ひとが輝くまちの学校」に再編集し収録されています。書籍はネット通販、書店、販売協力店でお買い求めできます。詳しくは本とゆたりをご覧ください。


[地方に暮らす。[ジョウモウ大学編]] 記事数:11

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|第五話|考える授業 小さな図書館と街をつなぐ

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 高崎に、あるご夫婦が開設した小さな私設図書館があります。図書館は木造家屋、書庫は土蔵、お茶室まである、個性的な和風の図書館です。ところが、なぜか街の多くの人に知られていないといいます。もっとたくさんの人に楽しく利用してほしい。そのためにはどんなことができるだろう? 学ぶのではなく、自分たちで考える授業。その一日をお伝えします。
 一緒に考えてみませんか? 小さな図書館のこれからを。




街の人が知らない図書館

 烏川からほど近い静かな住宅街、旧中山道の通り沿いに、辺りとは違う雰囲気を醸し出す一角があります。昔、銀行の外塀だったとも伝えられる、大きくどっしりとした煉瓦塀。なかに入れば、趣のある木造の母屋、漆喰の白壁に瓦屋根の土蔵、そして立派なお茶室—。今では珍しい、落ち着いた日本らしい佇まいに、知らずに訪れた人は、ここが図書館とは気づかないかもしれません。
 図書館の名前は山田文庫。昨年11月、ここのお茶室にジョウモウ大学の学生さんが集まりました。「誰でも気軽に遊びに来てもらえる図書館なのですが、そのことがあまり知られていないんですよね…」と話すのは、今回の授業をコーディネートしたジョウモウ大学の清水さん。以前、図書館運営に関する地域の活動に携わったことがあり、山田文庫の理事もつとめています。
 私設図書館というと、なかには専門的な分野に特化した、ちょっと敷居の高そうなところもありますが、山田文庫は違うようです。充実した経済学の蔵書のほか、絵本、文芸作品、推理小説、実用本もあり、入れて欲しい本があればリクエストもできます。さらに、明治時代にわざわざ信州から移築されたというお茶室は、申し込めば誰でも自由に、無料で使わせてもらえるのだそうです。
 お茶室をもつ和風図書館。他には無い、こんなに珍しい特徴があるのに、どうして?と思ってしまいますが、これまでは積極的に外へ発信することがなかったため、あまり街の人に知られてこなかったようです。「これからは、公益法人としてもっと多くの人に利用してもらえる図書館になっていきたい」清水さんは、ジョウモウ大学の授業コーディネーターだったことから、山田文庫について知ってもらい、この個性を活かせる使い方を、学生さんに考えてもらう授業を企画したのだそうです。




本好きのご夫婦から子供たちへ



 この日、詳しいお話をしてくださったのは山田文庫の関さん。(なぜかいつも「館長さん」と呼ばれてしまうそうですが、本当は事務局長をされています)
 関さんのお話によると、もともとは図書館ではなかったそうです。時代は昭和40年代。ご夫婦揃って大変な読書家だった山田勝次郎さん・とくさんは、子供たちにもたくさんの本に触れてほしいと願っていました。ところが当時、学校図書の予算はあまり十分ではなかったようです。そのことを知ったおふたりは、私財を投じて山田文庫をつくり、学校の図書購入費を援助するようになったのだそうです。それから約40年、おふたりの想いから始まった活動は、いまも続けられています。
 図書館としての歴史は20年ほど前から。おふたりが寄贈した本など、およそ5万冊ある蔵書を、広く利用してもらおうということから始まったそうです。

 お茶室を離れ、関さんの案内で敷地内の見学ツアーへ。最初に向かったのは、書庫である土蔵です。二戸前ある土蔵には、どちらもギッシリと本が詰まっています。でも、実はこれらは山田文庫の蔵書のごく一部。他にも倉庫があり、そこには未整理の本や雑誌がまだまだドッサリ眠っているのだそうです。
 次に向かった敷地の中央にある木造家屋は、明治以降、高崎の経済界で重要な役割を担った人物の邸宅でした。1階部分が増改築され、図書館になっています。
 今回は特別に、普段はほとんど人が入らないという2階も見せていただけることになりました。めったにない貴重な機会。早く見たい!と気が早まります。でも「古いから床が抜けるかもしれない…」と心配する声もあり、学生さんも、ジョウモウ大学のスタッフさんも、全員、階段を上る足は慎重に、そろり、そろり—。と、上から、先に上がった人の驚く声が聞こえてきました。
 階段を上り、目に飛び込んできたのは、明治・大正の世界。どうやら2階は、建築当時のまま残されていたようです。襖の引き手金具や欄間など、端々にもこだわって設えたことがうかがえる、ふた間続きの和室。文豪が執筆のために逗留した、そんなエピソードもありそうな、現代にはない独特の雰囲気が漂う空間に、学生さんもスタッフさんも、隅々を見て回ったり、写真を撮ったり「ここでも何かできそう!」と、期待の声があがったり。なんとも言えないワクワク感で、その場が満たされていきました。




「これから」に想いを寄せ合う



 最後はグループに分かれ、この場所をどんな風に楽しく活用できるか、学生さんたちが考える時間です。まずは、それぞれがアイディアを付箋へ書き出していくことになり、学生さんたちの考えるイメージが、文字となって少しずつ現れていきました。
 アイディアを出す間、学生さんたちの話し声はほとんどなく、お茶室は静けさに包まれていましたが、この雰囲気はガラリと変わることになります。
 清水さんの「では、そろそろ意見をまとめてください」という声をきっかけに、アイディアを囲み、テーブルにぐっと身を乗り出し、互いに意見を伝え合う、いきいきとしたディスカッションが始まったのです。
 この日の授業には、今回初めて山田文庫を知った学生さん、お子さんとよく利用しているお母さん、どんなところか気になっていたという男性、図書館が大好きな若い女性など、いろんな人たちが集まり、そしてほとんどの人が初対面でした。けれど、学生さんたちの様子からは、コミュニケーションの難しさは感じられませんでした。それはもしかしたら、山田文庫の「これから」に、一人ひとりの想いが自然と集まっていたからかもしれません。熱心な話し合いは、制限時間ギリギリまで続きました。

 今回のジョウモウ大学の授業は、山田文庫が街とつながり変わっていこうとする最初のアクション、と清水さん。学生さんのアイディアは、実現する可能性もあるとのこと。ここではご紹介せず、楽しみにとっておきたいと思います。
 関さんは授業を振り返り「新鮮な風が吹いたようだった」と話してくれました。授業を通して送られた新しい風は、これからどんなカタチに姿を変えていくでしょう。そのことが気になって、また足を向けてしまいそうです。この街の小さな図書館へ。(Miki Otaka)

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