梅雨までのひととき。植えつけられたばかりの田んぼの青と、実った小麦のまさに小麦色のコントラストが美しいとき。季節とともに移り変わっていく田畑の景色はお天道様と雨と作物を育てているお百姓さんの手によって成り立っているものであり、それはとてもありがたい自然の恵み。もうすぐじめじめの梅雨だと憂いでばかりもいられません。日本人だからこそこのお天気とうまく付き合いながら生きていくほうがずっと心地よいものです。
6月と言うと私は昔からじめじめの梅雨で、祝日も無い、つまらない何にも無い月だと思っていました。確かに小、中学校でも4月に新しい始まってわくわくしていた頃からある程度時間が経ち、ゴールデンウィークも終わり、6月は大したイベントも無くそれは地味なものでした。しかしよく考えてみれば一年のちょうど半分、折り返し地点なのです。日本の暦を振り返って、かつて多くの人が農を営んでいた頃は田植えも終え、様々な作物の植え付けも一通り落ち着く、そんな区切りの時であり、半年間の穢れを祓い清め夏を無事に越せる様に祈る行事も多かったようです。
そのうちのひとつ、6月27日は新箸の祝いといってその年に収穫されたばかりの新小麦粉を使い、うどんや団子を作り、それをススキやカヤなどの青茎で作った箸で食べるという行事があります。地方によっては「青箸の日」「青箸の年取り」とも言うそうですが、これは豊作祈願や疫病を防ぐという祈りが込められた行事。翌朝にはこの箸を近くの川に流したりもするのですが、この新箸の祝いは千葉の農家さんにお世話になったときに教えていただいたもの。それ以来6月27日ではなくともその前後、その年の新しい小麦粉が手に入ったときは「うどんを作ろう」というふうに思うようになりました。
また6月30日は「夏越しの節句」といい、6月の晦日であるこの日は1年の前半の最終日にあたり、半年の間に積もった穢れを流す大切な日と考えられていました。夏の風物詩ともいえる日本古来の風習で、神社では無病息災を願い厄除けをする「夏越祓え(なごしのはらえ)」が行われます。6月は旧暦では現在の7月にあたりますが、まだ梅雨のさなかで高温多湿になる悪疫の流行る頃であり、また前半の農作業が終わって体に疲れが溜まっている時期。この日は家族揃って夏越しまんじゅうやお払い団子を食べてスタミナをつけたということです。
こういった具合に昔の人は半年間を振り返り、夏に備えて丈夫なからだをつくろうと意識していたのです。現代の私たちはエアコンなどの便利なもの、電化製品で季節を通年変わらない快適さで過ごそうとしますが、それではせっかくの四季がとても平坦なものになりますし、からだは自然から遠ざかる一方。季節の暑い、寒いを感じつつ四季折々の変化に対応できるからだづくりや、昔ながらの道具での工夫や、それを受け入れる意識を持てるようになるともっと自然と仲良くできる気がします。旧暦にそった昔からの行事や習慣は季節を賢く、心地よく過ごすヒントを今の私たちに教えてくれるようです。
<コラム>夏越しの和菓子あれこれ
和菓子の世界では6月の夏越しにちなんだお菓子がいくつかあり、ういろうに小豆を敷き詰めた「水無月」や酒かすを利用した「酒まんじゅう」など。また6月16日は「和菓子の日」でもあります。これはなぜかというと、平安中期(848年)、時の仁明天皇が全国に蔓延した疫病祈願の折に16個の菓子や餅を神前に供えたことに由来します。和菓子に多く使われる小豆は、古来よりその赤い色が悪魔祓いとして信じられ、また疲労を回復し、利尿・利水効果に優れていることが知られています。高温多湿の風土で暮らす日本人は、体内に水分を溜め込みやすく、古来より人々は小豆の利尿作用が健康維持に欠かせないことを知っていたのでしょう。
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