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「本気で遊ぶ まちの部活」はゆたり出版の「ゆたり文庫 地方に暮らす。シリーズ03 本気で遊ぶ まちの部活」に再編集し収録されています。書籍はネット通販、書店、販売協力店でお買い求めできます。詳しくは本とゆたりをご覧ください。


[地方に暮らす。[前橋○○部]] 記事数:10

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最終話|青春は自分でつくれる!

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 キャッチコピーは「bushitsu発、手のひら行き。」。2015年春に発足した部活『前橋アイドル部』は、7人組の女性アイドルグループをプロデュースしました。その名は『ハイタッチガールズ』。1年間という期限付きの活動にもかかわらず、全国にファン層を拡げ、副産物として、前橋という街を大きくクローズアップする結果となりました。プロデューサーを務めた『前橋〇〇部』部長兼『前橋アイドル部』部長の藤澤陽さんは振り返ります。「自分の持っているスキル、人脈、情熱、すべてを注ぎ込み、最高にガチに取り組んだ部活だった」




「100%趣味でアイドルをプロデュースしたい」


躍動感あふれるステージ

 事の始まりは2014年春から、まえばしCITYエフエム『M-wave』でオンエアとなった前橋〇〇部のラジオ番組『前橋放送部』。放送を通じて、新しい部活をどんどん生み出し、紹介していこうという30分の番組です。パーソナリティは藤澤さんと、前橋〇〇部発起人の1人である岡正己さん。
 2015年3月には、番組ゲストとして『まえばしシティランナーもりあげ部』が出演しました。来る「前橋・渋川シティマラソン」に参加するランナーたちを応援するために結成された、ボランティア精神溢れる部活です。
 この大会で、フルマラソンに挑戦することを決めていた藤澤さん。『まえばしシティランナーもりあげ部』の活動の内容に、積極的に意見を出していきました。「どうしたら、ランナーのテンションが上がるだろう?」「ゴール付近で、女の子がランナーにハイタッチしてくれたら嬉しいなあ」といったジョークで盛り上がっていた最中、岡さんが発したひと言「それって、ハイタッチガールズ?」その場は大笑いで終わったそうですが、藤澤さんの中にはひらめくものがありました。「実現したら絶対に面白い。ハイタッチだけでなく、歌もほしいなー」
 興味を覚えたらすぐに行動に移すのが彼の持ち味です。「ハイタッチを連続でしていると、段々とハイになってくる。ランナーズハイならぬ、ハイタッチハイ!だ」。そんな、放送内でのやりとりを元に、友人で音楽制作を得意とする川上ヒロムさんに『High Touch High!』という楽曲をつくってもらうことを依頼。そして、仲間に声をかけて集めた約10人の女性たちでレコーディングを実施。前橋・渋川シティマラソンの40キロ地点、最後の給水所で、その曲を流しながら、女性たちがランナーにハイタッチするという仕掛けを実現し、前橋市から感謝状まで贈られました。
 女性たちの笑顔で周りが華やぎ、元気と勇気を与える様子を目の当たりにした藤澤さん。「アイドルをつくってみたい。それも仕事ではなく、100%趣味で」という強い思いが芽生えてきたのです。そして、前橋アイドル部を結成。本格的に、アイドルづくりを進めることになりました。
 「アイドルをつくるといっても100%未知の領域。何から手をつけて良いのか全く分からなかったので、当時自分が一番好きだったラップアイドルグループ『lyrical school』をお手本にしてみようと思った。いわゆるアイドル!という感じのAKB48や乃木坂46のようなカワイイ衣装を着なくても、良い楽曲と良いデザインでブランディングしていけばアイドルは表現できるはず。(川上)ヒロムがつくる曲のクオリティが高かったので、そこは確信していた」と藤澤さん。
 早速、ツイッターで、「前橋でアイドルやります。興味ある子はいますか?」と発信したところ、「私、センターやります!」と即座にレスポンスが来ました。この度胸ある女性こそ、『ハイタッチガールズ』のセンターポジションを担うことになる専門学校生の【おめぐ】。藤澤さんは、「こういうタイミングやフィーリングが合う人を特に大事にしている」と言います。続いて、ボーイッシュで声が特徴的な理系の女子大生【みらの】、高崎の大学に通う【ゆず】【まな】【あき】が加入。また、高崎経済大学で『0号館』という学生と地域の交流スペースをつくりあげた行動力のある【すみか】も名乗りを上げ、グループのリーダーに就任。最後に、ミュージカル経験を持つ【小粋】が加わり、7人組へ。
 さらに、以前から『前橋〇〇部』に関わってくれていた大学生の矢吹剛さんと、建築会社勤務の岡田友大さんの2人にディレクターやグッズ製作スタッフとして参加してもらい、ネオ・ローカルシティPOPグループ『ハイタッチガールズ』が誕生したのです。




7人の記憶と前橋を刻み付けたラストライブ


ラストライブは伝説に

 ハイタッチガールズの活動期間は1年間という期限付きでした。その理由は、メンバー7人のうち、3人が1年後には卒業・就職するため。AKB48のようにメンバー交替しながら長く続けていくパターンは商売では成り立ちますが、こちらはあくまでも「趣味=アイドル」です。
 「金銭的にも時間的にも終わりが見えないと厳しい。それ以上に1年で燃え尽きた方が面白いと思った」と藤澤さんは言います。
 手づくりの衣装、学校やバイトの合間を縫ってのボイストレーニングやダンスレッスン、そして初ライブ。「メンバーもプロデュース陣も無我夢中だった。生活の大半がハイタッチガールズ。趣味にこれだけ没頭できるってどういうこと?と、不思議な感覚だった」と藤澤さん。
 音楽担当の川上さんが彼女たちのためにつくった楽曲は全10曲。自己紹介ソングの「We are HighTouch Girls!」に始まり、ファンから最も熱い支持を得た冬歌「Powder Snow」、これが自分たちの提唱するネオ・ローカルシティポップだ!と歌い上げた「Natural High」、始まりがあれば終わりがあるというメッセージソング「LAST DANCE」まで…。1曲ごとにクオリティがどんどん上がっていきました。ミュージックビデオは前橋の中心商店街や、近郊の公園、遊園地などで撮影。ビデオに写っている場所を実際に見たいと、ファンたちが続々と前橋を訪れるようになりました。
 1年の間に人前で歌ったのはわずか6回。YOU TUBEへのアップロードと、メンバーやスタッフが毎日ツイッターでアップする活動の様子、それらに対する口コミだけで『ハイタッチガールズ』の人気は全国へと広がっていきました。各方面から様々なバックアップも集結。オーナーが前橋市出身のアパレルブランド『ALDIES』が、ライブで着る衣装を提供してくれたり、高崎市の建築事務所『㈱SNARK 』が練習場所としてオフィスの空きスペースを提供してくれたり、高崎市を中心に活躍するデザイナー「あしか図案」の殿岡渉さんがロゴマークを作成してくれたり。 多くの人々の協力を得て、ハイタッチガールズはカタチづくられていきました。
 「地域の祭りやイベントにハイタッチガールズを出演させてほしい、という依頼も数多く来たが、すべて断った。彼女たちをご当地アイドルにはしたくなかったし、町おこしのために利用されたくなかった。7人のかわいさと楽曲の良さだけを前面に出していきたかった」と藤澤さんは振り返ります。
  そして、「2016年のネクストブレイクアイドル」の中に『ハイタッチガールズ』の名前が登場し、コアなアイドルファンの間で名前が知られてきたタイミングで突然の解散宣言。惜しまれる声も多数聞かれる中、2016年3月19日、ラストライブが前橋中心市街地のプールバー『交水社』で開かれました。集まったファンは北海道から九州まで約150人。この一夜は彼らの心の中に、ハイタッチガールズの記憶と共に、前橋という街のイメージを強く刻み付けることになりました。


1年という期限付きでの活動




仲間同士でぶつかり合ってつくりあげること

 解散から1ヵ月半後、「ハイタッチガールズとは、なんだったのか?」をテーマにした、ファンたちによるパネルディスカッション『Re:DANCE 5.3』が、東京都町田市で開かれました。パネリストとして参加した藤澤さんは1年間の活動を振り返り、「青春はいくつになっても自分でつくれる。青春とは仲間同士でぶつかり合って1つのものをつくること。それはものすごく大変だけど、ものすごく楽しいこと」だと熱く語りました。
 2012年2月21日、「店もない、人もいない、何の刺激もない」、ないない尽くしの前橋で、岡田達郎さん、岡正己さんと共に『前橋〇〇部』を誕生させたときの思いと似ています。次々と部活を立ち上げていったときも、前橋シャルソンを初めて開催したときも、bushitsuをつくったときも、前橋忘年部をスタートしたときも、同じ思いを藤澤さんは感じていたに違いありません。青春は自分でつくれるのだと、いや、つくるものなのだと…。
 発足から5年が過ぎた今も前橋〇〇部は健在です。〇〇をやろうと言い出した人が部長になって新しい部活を生み出し、飽きたらやめるというゆるいカルチャーがこの街にすっかり根強いています。
 その一方で、新しい動きも生まれています。bushitsuの元管理人・竹内躍人さんをはじめとする20代のメンバーで立ち上げた「丸山ビル」(通称・丸ビル)。1階がコミュニティスペース、2階が管理人の住居というbushitsuと同じスタイルの場所が拠点で、場所の名前がそのままグループの名前になっています。彼らは、中心市街地の南側、『八幡宮』を中心とした地域(通称・三角州)を盛り上げようとしているのです。
 前橋〇〇部があり、その遺伝子を引き継いだ若者たちも独自の活動を展開し始める、幾重にも重なりあった人々の動きが、前橋を面白くしていくのでしょう。そして、ハイタッチガールズ・ロスから立ち直った後の藤澤さんが次に何を仕掛けてくるのか、興味は尽きません。TO BE CONTINUED。


ハイタッチガールズ


(文=阿部 奈穂子)


>ハイタッチガールズ 公式サイト

>紹介記事 LoGiRL

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