瀬尾まい子さんの本はほとんど読んでいます。
というか、気がつくと瀬尾さんの本だったという感じで買っています。
瀬尾さんの持つ、言葉の優しさ(中学の国語の先生でもあります)。
何気ない言葉のひとつひとつが、じんわり心にしみてきます。
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生命保険の営業をしている私は、ノルマを達成できず、
上司や先輩からの厳しい言葉、
小さな日常のトラブル、
さまざまな苦痛から逃げ出したいと、自殺を決意する。
自殺の場所は、日本海のある小さな集落。
大柄な男が経営(?)する民宿で睡眠薬を飲み、自殺を試みるが・・・。
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話の内容は、かなりベタです。
が、主人公が「再生」していく様子が、とても心地よく感じます。
生きる辛さの中から、「あるべき自分の姿を見出し、歩き出す」。
瀬尾さんは、そんな人間像を、いつでも淡々と描きます。
本の話から脱線してごめんなさい。
この本を読んで思ったことを書きます。
私はよく、「自分のやりたいことを、実現させているね。頑張っているね」
と言われます。
けれど、心がポッキリと折れてしまいそうになる日もあります。
どうしようもなく、途方に暮れていた時のこと。
友達から、
「頑張って」
でもなく、
「困ったことがあったら相談してね」
でもなく、
「お昼ごごはん、ちゃんと食べた?」
という件名でメールが来ました。
メールを開くと、
「夕食は白菜とかねぎとか冷蔵庫にある野菜をどっさり入れて、鍋にしたらいいよ。最後にうどんを入れると、体があったまるよ」
とひたすら、私の食事に関する内容でした。
実際、緊張や落ち込み、せわしなさでがんじがらめになっていた私は、食事も全くのどを通らなかったのです。
それを知っていたのか、知らなかったのか。
とにかく、そのメールはうれしくて、いまでも「泣けるメール」フォルダに保存しています。
言葉の持つ力はすごいと思います。
この小説の中で、「自殺します」と元恋人にメールしたあと、
死に切れずにメールの内容を撤回するために、一行、
「私は元気です。安心してください」
と送ったら、すぐに会いに来てくれたというくだり。
言葉はうまくごまかすことができる。
1のことを100くらいに話すこともできるけど、
的確に伝えるにはテクニックではなく、思いなのだ。
そういうことを瀬尾さんは、ちゃんと分かっている。
だから読んでいる人に安らぎと、生きることの意味がちゃんと届くのだと思いました。
「天国はまだ遠く」
瀬尾 まい子・著 新潮文庫
Trackback(0) Comments(6) by つき|2009-05-05 19:07
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