ご利用規約プライバシーポリシー運営会社お問い合わせサイトマップRSS

[ゆたり日和[特集]] 記事数:2

< 次の記事 |

◎ゆたり日和[特集]

中之条ビエンナーレ[後編]
作家と作品とまちの人のツナガルはなし

>公式ウェブサイトはこちら  >ゆたり日和はこちら

このエントリーをはてなブックマークに追加

大野公士 

 農家のおじいさんとおばあさんが、野良着のまま畑仕事の帰りに現代アートを楽しむ。そんな、農村の日常にアートが自然と溶け込む雰囲気に魅かれて、何度も参加する作家さんがいるといいます。中之条に滞在しながら、作家さんはまちの人とどんな風に関わり、作品を制作したのでしょう。作品と共にあるまちの人とのエピソードから、『中之条ビエンナーレ』ならではの魅力が、見えてくるかもしれません。


左上から時計回り/花田千絵、小板橋慶子、マエノマサキ、石坂孝雄



■episode1
先祖伝来の家宝と今を生きる湯本さん
コミュニケーションしてつくる面白さ


 切り拓いた土地で、長く山村文化を育んできた旧・六合村の赤岩集落には、養蚕農家が昔の姿のまま数多く残されています。そのなかでもひときわ長い歴史を感じさせる3階建ての「湯本家」は、3階は約100年前、2階から下はなんと約200年前に建てられた町の重要文化財であり、いまも人が暮らす生活の家です。馬場恵さんは、ここで湯本家に代々家宝として伝わる植物標本をモチーフとする作品を制作しました。




●馬場さんより

「message - 絶滅シタ野生蘭」/六合エリア


 1830年代の植物標本が残されていると知ったときは驚きました。江戸時代、ここでお医者様をしていたお父さんと息子さんたちが、薬草の勉強をするためにつくった押し葉標本です。植物学を研究されている方によると、これだけ状態が良いのは本当に珍しいそうです。最初は、絶対見せていただけないだろうなって思っていたんですけど、湯本さんにお話ししたら、簡単に「いいよ」って。家宝なのに(笑)。

 人が暮らす場所での制作はすっごく面白かったです。他の会場では過去を発掘しながら静かに制作する作家さんもいるのですが、私の場合は、制作のそばで湯本さんがのんびりくつろいでいたりして。湯本さんというリアルに生きていらっしゃる人物と、江戸時代のご先祖がつくられた押し葉標本と、コミュニケーションして作品をつくっていきました。

すっかり仲良しになったという馬場さんから見た、家の主・湯本さんは「行動力があって
好奇心旺盛な方。あと、すごい個性的なキャラクターの持ち主ですよ」




■episode 2
初めての土地で面白いことを探していた。
見つけたのは、「このまちの人と話すこと」


 「まちの人と一風変わったコミュニケーションをとる作家さんがいる」と紹介されたのは、馬医大輔さん。石川県から制作のため遠征する馬医さんは、まちの人の親切の連鎖から、気がつけば、会場に隣接するスナックの常連的存在となり「馬医ちゃん」と呼ばれるほどの人気者に。今回が初という映画のテーマは「農業」。撮影対象にまちの人を選んだ理由も、中之条の人たちのその温かい人柄にあったようです。




●馬医さんより

「畑の図鑑」/中之条伊勢町エリア


 まちの人が僕の体調や食事を気遣って、宿とかスナックを紹介してくれたんですよ。最初は偶然フレンドリーな人たちに出会ったと思ったんですけど、自己紹介の張り紙をしたら、次々、親切に話しかけてくれて。あ、石川の人とは違うなって思いました。大学の専攻は彫刻で、映画の撮影は今回が初めて。何か面白いことがしたいと思っていたんですが、このまちの人たちと話すのが一番面白い!って気づきました。

 中之条は日本の原風景みたいなところが残っていて、僕は農業のことを全然知らない、じゃあそれを撮ろうと。まちを車で走り、農作業している人にその場でインタビューしました。農業賛美でもこの人がスゴイということでもなく、けど、嘘じゃないこと。その人が、その時、その場で、話したいと思ったことです。観る人には、一冊の図鑑を開くように受け取ってほしいなと思います。「図鑑はどこまで彫刻か、彫刻は映画に何をおぎなえるか」。

建物右端が展示会場。まちの人たちとの愉しいエピソードが尽きない馬医さん。次にもし
撮るならこんなテーマになるようです。「中之条の人は、なんであんなにフレンドリーなのか?」




■episode 3
自らの手で道具をつくり、丁寧に暮らす赤岩の人
温かさに、また来たいと思わされる


 旧・六合村の人たちが、暮らしや生業のなかで工夫し育んだ建築文化を探り作品を制作する熊谷雅さんは、2回目の参加です。2011年には炭焼きの際に建てる笹小屋の再生を、今回は土壁の小屋を4ヶ月かけて制作しました。副題にある「芝棟」(しばむね)とは、茅葺き屋根の上に草花を生やす棟のこと。40年程前はこの地域でよく見られ、おばあさんが「あれは綺麗だった」と懐かしんで話してくれたそうです。


●熊谷さんより

「土壁の小屋プロジェクト(芝棟−屋根の花園)」/暮坂エリア


 素材は全部、赤岩(旧・六合村)の物なんですよ。栗の木、茅、藁、土、竹は200本。赤岩の人たちが材料も道具も提供してくださったんです。ほかにも実行委員さんが毎日のように会場まで送ってくださったり、近くのお蕎麦屋さんに励まされたり。 だから私一人でつくったものではなくて、大勢の人たちとの協力でできた作品です。

 大自然から感銘を受け、触発されてつくりましたけど、やっぱり大きいのは地元の人たちとの関わりです。制作で必要な竹の割り方や編み方を教えていただいたり。それから、ここのおじいさんたちは物づくりの知恵をたくさん持っていて、自分の頭で考え、手の技術で暮らしているんですよね。私にも道具を手づくりしてくださったんですよ。赤岩の人は本当に温かいです。この作品を見て、「芝棟」のことを思い出してくださったらいいなって思います。作品に屋根はないけれど、空があるから—。

続けて参加した理由はこの六合村にある、と熊谷さん。「ここには人間のふれあいとか、
人の温かさがあるの。だから、また行ってみようかなって思わされるんです」





冷たいアイス、瑞々しいキュウリの味噌よごし、揚げたてサクサクの野菜の天ぷら。まだ夏の暑さが残る頃、会場を回るなかで目にしたまちの人から作家さんへの差し入れです。おばあさんがゆっくり歩いて持って来られたり、年配のご夫婦が食卓に招いてくださったり、他にも取材中、まちのあちこちで飾らない温かさに何度も出会いました。今頃は、訪れる人とまちの人との、作家さんの作品を通した優しいツナガルエピソードが生まれているかもしれません。秋色をまとい始めた、まちのどこかで。(MikiOtaka)



■お問い合わせ
中之条ビエンナーレ2013
実行委員会事務局

〒377-0424 群馬県吾妻郡中之条町大字中之条町926-1
TEL.0279-25-8500(会期中 木曜定休)
公式ウェブサイト http://nakanojo-biennale.com/
主催|中之条ビエンナーレ実行委員会  共催|中之条ビエンナーレ運営委員会


ページの先頭に戻る▲

[ゆたり日和[特集]] 記事数:2

< 次の記事 |

» 最近の記事
» カテゴリ



「ゆたり」は時の広告社の登録商標です。
(登録第5290824号)