※ヅラ・・・・カツラのことです。
ちなみに、カツラをあわせたりかぶせたりしてくださる方を演劇・映画界では
トコヤマさん、と呼んでいます。
青年座にいたころお世話になったカツラの丸善さんにいく。
お父さん役の名取さんのカツラあわせをするためだ。
笹塚の事務所に入ると、
いたるところに髪の毛がぶら下がっている。
お世話になっているのに言うのもなんですが、
不思議な仕事があるんだなあ・・・。
カツラにまつわる苦い思い出。
劇団の公演で初めて被ったカツラは
いわゆるタマネギ頭、
黒柳徹子よろしく、大正時代の女学生の役だった。
私の頭の形がいいのかわるいのか、
いや、単にデカ過ぎるのだが、
とにかく、きつくて仕方がない。
きついものをずっと被っていると、頭痛がしてきて、
本当につらいのだ。
この芝居は約2年、ブランクはあったものの、
旅公演を続け、各地を巡演した。
で、移動のときは衣裳とともに「ズラ」ももちはこび、
まさに体の一部として、大切に扱わなければならない。
なのに、これが私を苦しめている!!
ああ、無情・・・・
そして、ちょうど肌とカツラを止める部分、
もみ上げのところなのだが、ここにつけるノリが
どうしてもきれいに取れなくて、
前の日につけたノリが残ってしまうのだ。
先輩女優に扱いかたを注意された。
それが連日つづき、
きちんとノリをはがしてから帰れと叱られる。
しかし、芝居が終わるとすぐに劇場の閉館時間だ。
間に合うわけがないんだよ~~~!
旅公演が終わって東京に戻ったとき、
私のカツラはノリつけする部分がくちゃくちゃになっていた。
それがばれたくないばっかりに、
わたしはその「クチャクチャ」をちょん切ってしまったのだ。
ああ、今考えてもなぜそういう行動に出てしまったのか
穴があったら入りたいくらいだ。
この件でカツラやさんから怒られたのは
舞台監督の長だったFさんだった。
千秋楽がおわり、しばらくたってから
Fさんは私のところに来てにっこりと、
「カツラが随分活躍したみたいだね。」
と、それだけ言って去っていった。
もう・・・心が・・・痛すぎ・・・!
カツラやさんのS氏も、ひどく怒ったりはしなかったが、
まあ、多分あきれたんでしょう。
楽屋の先輩たちは本当に恐かったけど。
この程度のお叱りですんだのは、
青年座とカツラやさんの長い深い付き合いがあったからだろう。
特に座長は舞台のときは必ずズラをつけ、
そのたびにカツラやさんのS氏は
楽屋に出入りしていらっしゃった。
私が退団してからカツラとは縁のない芝居ばかり続き
ようやくS氏と再会したのは
座長のお葬式だった。
さて、本日S氏が、あのころの私の失態に
突っ込みを入れてくるかと思ったら
何も言わなかった。
ちょっと寂しいような、ほっとしたような。
変わりにテーブルの上にあったドラ焼きをすすめられた。
おなかが空きすぎていて、名取さんと頂いた。
ふたりとも、その場では食べずに
カバンに入れた。
結局、理想的なカツラを設えていただき
今日はこれだけで、芝居が一回り膨らんだような気がした。
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by 鯨エマ|2007-11-13 00:12
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