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初めまして。チベットサポーターです

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「わかったわ、自分がやるべきことを見つけた人って、若返るのね!」
 ようやく涼しくなり始めた秋の午後。青山のレストランで一緒にランチを取っていた女友達が、確信を得たかのように声を高めて言った。
 彼女と会うのは2年ぶり。同業の編集者で一緒にある雑誌の創刊号に携わった仕事仲間だ。好奇心満々の大きな黒い瞳でまじまじと、観察対象のようにこちらを見詰めるその強い視線が邪魔してなかなかパスタを口に運べない。彼女はその大きな瞳を遠慮なく私の顔に近づけてくる。
「なにか、いいことあった?」


「ないわよ、男もできないし」。私は笑って答える。
「でも、顔がキラキラ光ってる!」
いやいや、そんなはずはない。ゴールドパウダーはつけてないもんね。
「あのさぁ、2年前より若返ってる。原因は何?チベットに行ったら、若返った、とか?」
 まさか!確かに私は半月前にチベットから帰ってきたばかり。しかし、高度4000mの雪山で食べた羊の肉かヨーグルトの菌にあたってか、深夜ひどい胃痛に襲われ、七転八倒して以降、毎日疲れが取れず、どの写真をみても目の下にクマはあるわ、頬はたるむわ、どっと10歳は年とってみえる。しかも、スキージャケットで過ごしたチベットから、秋だというのに真夏のように暑い東京へ戻った途端、風邪をひき、エネルギーは枯渇寸前。回復までに2週間かかったから、心身ぼろぼろ。ようやく体調復活したばかりの私をそんな言葉で讃えてくれる友人の感性に感謝しつつ、彼女の探究心に応えるべく、私は話し始めた。

「あれから、私、インドへ行ったでしょ。そこでダライ・ラマ法王にお会いしたの」。
 彼女と一緒に創刊雑誌を編集し終えた2005年の秋、私は休暇を取ってインドへ向かった。紙面が輪転機で印刷されている間に、次号のネタを探しに行こう、と気楽な気持ちで成田を飛び立った。自分の人生が急回転するとも知らずに。
「わっ、あのダライ・ラマに?」
「そう、チベットの精神的指導者、ノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマ。北インドで偶然、お会いしたのよ。法王は私の前で立ち止まられて、合掌する私の両手をすっぽり包んで、ぎゅっと握ってくださったの。そして私の目をじっと覗き込むと、こう尋ねたの。”Are you come from Japan?”って。あまりに突然のことで、いったい何が起こってるのか分からなかった。私はただ一言、うわずる声で“Yes!”と答えただけ。法王は私の目をじっと見据えたまま、4、5回頷くと、手をそっと離して、そして歩いていかれたの」。
「で、どんな感じだった?」
「法王の目が胸の中心にすぅっと降りてきたみたいだった」。

 ランチを取りながらチベットについて2時間近く話し終えると、彼女はこう言ったのだ。
「わかった!自分がやるべきことを見つけた人って、若返るのね!」
謎が解けたとでもいうように、満面に喜びを讃える彼女の方こそキラキラして見える。
「人って、本来の自分に目覚め、生きる道を見いだすと若返るらしいのよ。そういう人がこの時代、どんどん増えていくって、アーユルヴェーダの先生が言ってたわ。若返りの時代の到来なんですって」。

 私が若返ったかどうかは定かではないけれど、確かに数年前と今の自分は全く違う。自分の生き方が定まると、エネルギーを無駄にあちこちに放出しなくなる。意識が常に目的に集中するからだ。定まらない時は、心の中は常に騒がしく、意識は外へ外へと彷徨い出して、あらぬ方向で飛んだり跳ねたりする。そんな時、蓄えたエネルギーは漏電のごとく流れ出すから、人は疲れやすくなるのだ。

 これまで私は、何かを求め、何かを探して、ずいぶん旅をした。ある時は、我々の故郷はシリウス星だというアフリカの部族の村も訪れた。ある時は、アメリカのネイティブインディアンとパイプの儀式を行い、ある時は、神々と天女が住むという中国奥地の山頂から眼下の雲を眺めもした。ある時はマンハッタンで現代アートを探り、ロックンロールやパンクロックの中に答えを探した。ある時はアメリカ南部でゴスペルシンガーと語り合い、ある時はオーストラリアの海でイルカと泳ぎもした。ひとつひとつの旅は興味深いものだったけれど、そこから探し求めていた確かな答えは見つからなかった。
 しかも、それぞれの旅は響き合うことも紡ぎ合うこともなく、単独に存在しているようにすら見える。

 私が探し続けてきたものは、触れた瞬間、人生が180度回転してしまうような強烈なサムシング。命の謎さえ解き明かす、深淵な英知。ダイヤモンドのように固く、揺るがない美しい精神だ。

 度重なる旅の末、インドで私はそれに出会った。ダライ・ラマ法王と彼を精神的指導者と仰ぐ「チベット」。私には、それは混迷する現代に燦然と輝く、美しいスピリチュアル・ストーンに見える。英知を秘めたその尊い宝石に出会って以来、私は揺るぎないチベットサポーターになった。

 これは、一人のチベットサポーターが綴るブログです。皆さま、どうぞよろしく。

» Tags:チベット,

Trackback(0) Comments(1) by 北澤杏里|2007-10-22 16:04

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