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突然の悲報(2)〜ホピの神話とチベットの今

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チベット族の遊牧民10万人を強制移住させる法令を中国政府が発表したのは、昨年のこと。当初は、この10年間で移住を完了させるとのことだった。私が訪れた昨年9月、ホジョレの村人は自分のところには火の粉は降りかからない、と思っていたに違いない。その赤紙が来るとしても、もっと先の話にちがいない、と不安を押し隠して平穏に暮らしていたのかもしれない。しかし、容赦なく、白羽の矢はホジョレに当たった。

本土からの知らせによると、この強制移住は10年間で移住を完了させるのではなく、移住期間を10年間とするらしい。この1〜2年で10万人の遊牧民が町に移住し、10年間、強制移住の法令の元に生きることになる。
移住者には町の近隣にマッチ箱のような住まいと小さな菜園があてがわれる。
さらに、移住した家族に年間2800元から3000元の生活保護金を10年間支給する。若者の最低収入が年間で4800元というから、最低レベルの暮らしはできるだろうが、十分ではない。政府は「そのお金で商売でも始めたらいい」と言うのだから、ずいぶん無謀な話だ。

広大な大地に整然と並ぶ家並みは、移住遊牧民のためのもの。各家は小さく見え、どうしても、現代アウシュビッツに見えてしまう。)

遊牧民に商売ができるのだろうか?しかも、そのわずかな資金で?
男たちは馬に乗り、ヤクや羊を追い、女たちはミルクを搾ってきたのだ。モノを仕入れて売ることも少ない資本ではできないだろうし、第一、中国語を話せない彼らに、どうやって商売ができるというのだろう。
どうにか商売を始めてみたものの、売り上げが伸びずに、銀行から借金をし、結局、利子も払えず、住まいを没収。そんな悲しい構図さえ見えてくる。

10年後に草原に戻りたければ戻っていい、と政府は言っているそうだ。
でも、その時にヤクや羊たちはどこにいるのだろう?

(遊牧民は乗馬が上手い。ワイルドにも、鞍のない裸馬を乗りこなしてしまう)

強制移住の目的は、近年の水不足、河川の汚染、CO2の増加などを押さえるため、また緑地を休ませるための「生態保護」なのだそうだ。

遊牧民は電気もガスも石油も無関係。冷蔵庫もテレビも電話も使わない。
彼らは究極のエコライフの実践者だ。
ストーブの燃料はヤクのフン。テントもヤクの毛で編んでいる。
リサイクルの理念は徹底されているから、ゴミらしきものは彼らの生活に見当たらない。
私たちが学ぶべき彼らの暮らしを、町の暮らしに変えることで、この地球上に何らかのメリットがもたらせられるのだろうか。
河川の汚れは工場からの排水。
近年の水不足やCO2の増加は、豊かな暮らしを追う私たちが巻き起こした結果であって、自然の暮らしを営んできた遊牧民のせいではない。

夏のチベット高原には、赤、黄、緑、青、紫、ピンクの色とりどりの花々がいっせいに咲き誇る。夏の草原は、チベットの神々が降り立つ曼荼羅のように美しい。

清らかな花園で暮らし続けた遊牧民に代表されるチベット文化は、静かに、ゆるやかにその美しき鼓動を止めていくのだろうか。
世界のニュースで騒がれることもなく?

今回の政策で政府はひとつの民族の文化を消滅させるために、莫大な金額を投下する。いったい何のために?

移住が終わったある牧草地では、すでに地下資源の採掘が始まっている、と伝える報道もある。
チベット高原の美しい花たちは容赦なく掘り返され、何億年もの長い眠りについていた鉱脈は無謀にも陽の光にさらされることになるのだろうか。

私は今、アメリカの先住民族、ホピ・インディアンの神話を思い出している。
「“金色の灰”が世界を滅亡に導く。“金色の灰”が眠るホピの大地を、決して掘り起こしてはならぬ」。
太古からの言い伝えを破り、“金色の灰”を掘り起こしたのは白人だった。それで彼らはひょうたんを作った。それが、広島と長崎に投下された。
ちなみにホピとは、「平和」という意味である。

» Tags:チベット,

Trackback(0) Comments(2) by 北澤杏里|2008-02-26 11:11

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