田舎にばかり引き篭もっていないで、たまには街へ出てみよう。レヴィ=ストロースの書を捨て(追悼というわけではないが、最近「悲しき熱帯」を読みはじめたので)。ということで、大友良英プロデュースの『ENSEMBLES parade』というイベントを観に、水戸芸術館に行ってきた。
このイベントは、水戸市内を参加者たちが演奏をしながら練り歩き、最終地点の水戸芸術館に集結して合奏をする「パレード」と、さまざまな楽器、音の出るものを持ち寄って音楽を奏でる「ワークショップ」と、ジャズ、ノイズ、フリーインプロの今や世界的な第一人者である大友良英とワークショップ参加者たちとによる「大友良英ソロ+ポータブル・ギャラクシー・オーケストラ」の3つによるもので、ぼくは出来れば夜のライブを観たかったのだが時間の都合でパレードを観に行ったのだ。
http://www.artmetoo.jp/ensembles/index.html
芸術館の広場には、市内を歩いてきた参加者たちがそれぞれの楽器を軽快に鳴らしながら続々と集まってくる。すでにコンサートははじまっているのだ。「聖者の行進」を演奏するグループがあれば打楽器を盛大に打ち鳴らしながら行進してくる楽隊もあり、最終的には100人ほどの大人数となって、無秩序にてんでばらばらの音を出しながらも広場は次第にひとつの音のるつぼと化し、その音は芸術館や隣接する建物に反響し、狭い路地を抜けて街にほどけてゆく。
ぼくは大友良英さんという人に関してはJAMJAM日記もチェックしていないし、ONJOをはじめとする音楽活動にも自発的に耳を傾けたことは無いのだけど、以前ラジオで聴いた『see you in a dream~大友良英 produces さがゆき sings~』に収録の「黄昏のビギン」がとても素晴らしかったこともあり、つねに動向を気にしていたのだ。
おそらくその大友さんと思われる男性(遠目に見ると温水洋一のような普通のオッサンにしか見えなかったけど笑・失礼)が、ステージに立って腕を振りはじめる。それに合わせて、広場に集まった音たちは伸ばしたり、強めたり弱めたり、切ったり。大友さんの腕が指揮となって音を街へ放っていく。
先に言った『see you in a dream~大友良英 produces さがゆき sings~』は中村八大曲集なのだが、それつながりで言うと今回のイベントからは昭和ノスタルジーという側面を強く感じた。というのも、芸術館に着いてから時間があったので周囲を適当に歩いていたら音楽が聞こえてきて、大通りに出るとパレードに参加したグループがいわゆるちんどん屋のスタイルで「聖者の行進」を演奏しながらゆっくりと歩いているところだった。そのさまはまさに、街のどこかから音楽が流れてくる昭和の原風景であるように感じられたのだ。(※)
大友さんはそのような、音楽というものが音楽それ自体にとどまらず、街だとか、あるいはそこに住む人々の生活などと密接に結びついた一種の様態(=街)をかたちづくろうとしたのではないか、と思う。音楽そのものよりも、音楽をつくっていく、音楽が街で生まれていく、それに能動的に参与していくというプロセス。耳で聴くのではなく、からだ全体で表現し、感受するという音楽のありかた。というものを「思い出させてくれた」気がする。それはぼく自身にとってもある種のノスタルジー喚起であり、また体の細胞が入れ替わるような新鮮な気持ちも呼び起こしてくれた。懐かしさと新しさ(=生命感)の交錯。音そのものに対してラディカルな大友さんならではのイベントではなかっただろうか。
リズムを前面に押し出したパフォーマンスだったので、ポリリズムをもっと際立たせると面白いと思った(ぼくの聴いた限りではまだポリリズムには踏み込んでいなかった)。あと大洗高校のマーチングバンドが参加していて、一糸乱れぬ隊列で広場に入ってきたときにはとても感動した。心が震えるものがあった。彼らが広場に入ってからバランスよく場にほどけていく感じもとてもよかった。
ライブ観たかったなあ。大友さんのソロ聴きたかったなあ~。「来年もまた来ま~す」と言っていたので、いろいろコンセプトを熟成させて、また来年見られるものと思われる。ぜひ行きたいと思う。
(※)とはいえ、個人的には殆ど何も感じなかったことは、自分でも驚いた。ぼくが街から受けるのはあいかわらず疎外感でしかない。子供の頃水戸のデパートで、同い年くらいの見知らぬ子供に「ばか。ば~か」と罵られた恐怖がいまだに残っているのかもしれない笑。街の人はよう好かんのである。そんなわけで、田舎の山へとつい足が向いてしまうことになる。でも、このイベントを観て少し変わったのかもしれない。
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http://www.youtube.com/watch?v=VcsDsOEU3B0
ちあきなおみの『黄昏のビギン』。ちあきなおみっつったらあれですよね、「ねぇあんた」笑。素晴らしい。
さがゆきのビギンはピアノとのデュエットなのだが、何と言っても独特の呟くような声が曲の世界を鮮やかに、やわらかな光で描く。ピアノのタッチというか質感がまた素晴らしい。そして歌詞がほんとに良いよねえ。
あんまり関係ないところで最近の紅葉
Trackback(0) Comments(2) by 雨|2009-11-11 23:11
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