ご利用規約プライバシーポリシー運営会社お問い合わせサイトマップRSS

[雨は遠いそらの上] 記事数:109

< 次の記事 | 前の記事 >

wastin' summer '08

このエントリーをはてなブックマークに追加

憂鬱だった。
冷たい雨が降り、夏のあのごやごやとした喧騒がいつの間にか死に絶えつつあることを、8月の半ばにしてぼくは肌で感づいていた。「短い夏はそこでねばってんぞ」とはぼくの好きなロックバンドの歌詞だが、それを去年は9月の終りに聴いていたのだ。夏はまだ終っていなかった、しかし今年の夏は違った。摘んでから午後までテーブルの上に置きっぱなしにしておいたハナオクラのように、夜の甘い夢のあとの朝のように、夏はぼくの中で急速に色褪せ、しぼんでいった。憂鬱だった。

憂鬱にかまけているうちに、一日中家に籠もり酒を飲む毎日になり、ビール缶とウイスキーの瓶が部屋に散らばっていくばかりでますます憂鬱になる。頬のたるみが気に入らなくてつねったりひっぱったりしながら酒をあおり、「北島康介、大勝利~!!」はいったい誰に対してのリップサーヴィスだったのか(そんなこともないか)とりとめもなく考え、腹のたるみが気になり腹筋をするも5回で満足し、PerfumeのPVを観ながら泣き、ながら酒をあおっていたら案の定酒が尽きてしまった。このときの失望感といったら無い。冷蔵庫の中に未だ未開封の酒がずらりと並んでいる、これこそ人生における豊穣であろう。未開封、というのが重要だ。封を切ってしまえば、後は濁った眼でこれをただ消費するのみ。未開封のCDや本も雑然と、部屋のどこかで埃をかぶっていた。菊地成孔ダブ・セクステットとか、アフターダークとかあざやかとか。FIVE DEEZの2ndを買ったはずだけど見当たらない。まあこれは名前を列挙して、おれこんなの聴いてるぜ/読んでるぜっつうひけらかしですから気にしないでください。そういう諸々の諸事に無自覚である連中こそ糞なのである。見よ、我は堂々とひけらかしである、見栄であるということを自覚し、自覚しつつ片腹痛めつつ明記しておる。著作物を借りて並べ立てることで己の価値を高めようとする、何とあさましく意味の無い行為であるかを痛切に認識しておるのである。またそういう自覚ある態度がいかに見栄えよく見えるかっつうことにもよおく精通しているのである私は我は。消費社会の寵児。ああおれは病んでいる。地味に、ありふれて病んでいる。恐れている。あー阿呆らしいぜ。と、ひとに言われるのも恐いことである。
まあいいや。何の話だっけ?まじで忘れた。読み返して思い出すつもり。読んだ。思い出した。そうです、酒が切れてまあやることないもんですから湿気った柿の種ペッパーマヨネーズをぼりぼり反芻しながら眺めたんですぼく、県別マップル道路地図栃木県広域・詳細TOCHIGI PREFECTURE 9を。ばっと開いてぐっと見た。もしくはぐっと開いてばっと見た。そしたらそこに湖があった。番号44の左ページ中央やや左下に「芳那の水晶湖」と書いてある。そこをぐっとばっと見た。
まあやることないし夏も終るしためしに行ってみっかー。と思った。
  
行った。
  
  
晩夏の日光に道路ゆらめき、がらんとした駐車場におれの車と他一台。小高い山の上にあってあたりを眺望す。地図を頼りに行けばここは芳那の水晶湖の北側、芝ざくら公園。もちろん完璧に季節外れの訪問、一面に広がる芝。
 
がらん、としている。坂を上がり展望台でサンドウィッチ。駐車場に停まっていた車の運転手が自販機でジュースを買っているのが見える。ほんで一面の芝。蠅がやってきてサンドウィッチにたかろうとする。そうだよな、お前らにとっちゃ思いがけない豊穣だろうと思い自分、廃墟に来たような気分。ここはどこだ?おれは誰だ。市貝町の北、芳那の水晶湖を背にサンドウィッチを頬張る26歳のデイ・トリッパー。

  
  
芳那の水晶湖はエメラルド・グリーンに輝く人造湖だ。五角形のような形をしており、高台から見下ろすと結構でかい。水面を見つめているとちょっとだけ海を思い出す。海へ来なさい、そして幸せになりなさい。井上陽水を朝聴いたばかりなので。こじつけだ、ンなの。
湖のほとりを歩いている人をさっき見かけたが、どこに行ったのだろう。誰もいない。蝉のかしましい声のほかは何も聞こえない。人っ子ひとりいない。強い日差しの中でぼくは一人歩いている。海へ来なさい、と呟いてみたが全然雰囲気が出ない。当たり前だ。ぼくは海へ行くタイプの人間ではない。暑ければ暑いほど、夏ければ夏いほど山へ逃げる民なのだ。

 
湖のまわりの鉄柵には、栃木県内の市町村の代表する花が描かれた看板が一定間隔をおいて取り付けられていた。おそらく県内すべての市町村の花がぐるりと湖を囲んでいるのだろう。もしぼくが幼少であれば看板を全部見て回るに違いない。足利市とか壬生町とか那須塩原市とかキリバスとか、行ったことも見たこともない街を想像しながら、あやめとかフリージアとかゆりとかラフレシアとかアブチロンとか、見たことも食べたこともない花の看板にいちいち「へえ~」とか吐かすに違いねえ。でも今ここにいるのは夢から醒めて現実の、あまりのザラザラな手触りにおののき無力な、水を飲み飲み26歳のデイ・トリッパー。酒が切れてる。
南那須町の花・こぶし
田畑を潤す芳那の水晶湖
(南那須町は烏山町との合併により那須烏山市となる)

茂木町の花・ききょう
田畑を潤す芳那の水晶湖

市貝町の花・きく
田畑を潤す芳那の水晶湖

 
  
芝ざくら公園の駐車場は広い。芝ざくらが満開の際には夥しき観光客が訪れるのだ、とポスターは主張している。禍々しいほどのピンク。桃色。艶桃色。8月30・31日には「いちかい温泉まつり」ってのをやりまするよ、と他のポスターが主張していた。花火も上がるらしいし、フリマもやるらしいので、行ってみたらいいんじゃない?行ってみて、写真を撮って、ブログに書いたらいいんじゃない?写真をアップしたらいいんじゃない?それをするのはおれだ!たまにのんびり走りたいなと思っているのに、高校生のガキにバイクでぴったり後ろにつかれて、汗かき尻かき苛々何をそんなに苛ついているのだお前は苛々するなあお前は!と苛々しつつ涼やかなる風に涼しい顔の練習を必死にする、26歳のウェスティン・タイマー。こうやって夏が終る。海へ来なさい。心にさざなみがたゆたっている。ぼくは何処か遠いところにいる。
  

無人の交流センター。さびしい。土日祭日にはレストランは開くみたい。隣では打ち棄てられたような屋台が晩夏の陽射しを受けて漂白していた。
  
  
  
ブログランキング・にほんブログ村へ
↑次回は琴平山遊歩道をご紹介しつつ、「うざい」という流行りの言葉に苛立ちを隠しません。予定。
  

» Tags:栃木,

by 雨|2008-08-23 12:12

[雨は遠いそらの上] 記事数:109

< 次の記事 | 前の記事 >

ゆたりブログ



「ゆたり」は時の広告社の登録商標です。
(登録第5290824号)