私のような世迷者の阿呆のアダルトチルドレン崩れの塵野郎がおこがましいことであるのだが、日光へ行ってきた。日光。世界遺産もある世界的な観光地、晃。
ついこないだまで森からは蝉のか細い声が辛うじてきこえていたがいよいよそれも消えうせ、だんだんと本格的な秋の到来を肌に感じている今日この頃であるが、朝っぱらから家に閉じこもって酒を飲みつつテレビを眺めていると、標高の高い日光においては下界に先駆けて紅葉がはじまっているという。腹の底がむずむずした。「紅葉がはじまっている」という言葉にはむずむずするものがある。葉が紅く染まっているのに、山が紅く燃えているというのに、私はこの塵は朝っぱらから酒浸りでふらふらなのだ。ふらふらのむずむずなのだ。これはひとつ一念発起して日光に行からずんば尻子玉をかっぱ。酒など飲んでいる場合ではない。
深夜に出発し、無人のいろは坂をうねうね登って明智平に到着する頃には、暗い蒼空に黄金色の雲たなびく。夜もだんだんと明けかけていた。若者が二人、夜明けを撮影せんと待ち構えている。気が引けて、我は上を行くぞ若人よ。と先を急ぐ。中禅寺湖の彼方に月が落つ。ほんの数分のことだ。
私の今日のお目当ては戦場ヶ原。戦場ヶ原の朝が見たいと思うておる。しかして行けば竜頭の滝もいい感じに染まっておる。中年の夫婦が下から歩いてくる。空気は冷たく、中禅寺湖の霧は漂い、いい感じです。ここからさらに坂をのぼり、戦場ヶ原へ。
戦場ヶ原の三本松茶屋からすぐの展望台をのぞいてみると、いやおじいさんおばあさんがカメラに三脚でぎゅうぎゅうに陣取っていて、今が春よときゃあきゃあ騒いでいて、ぼくみたいな小僧は入り込めそうにないので、とぼとぼ歩きながら戦場ヶ原への入り口をめざす。戦場ヶ原は一面霧がかかっていて展望台あたりから眺めるだけでもかなり美しいのだけど、せっかくだからさらに踏み込んでみたい。若僧は朝に弱いがかわりに足を使うのだ。
戦場ヶ原の北側から中へ入っていく遊歩道があり、設置された木道を慎重に歩いていく。昨日の夜まで降った雨のせいで滑りやすい。しばらく進むと木々がなくなり白樺がぽつぽつ見えはじめると、いよいよ戦場ヶ原が眼前にひらけた。
と同時に男体山の稜線から太陽が!
わずか数分のあいだに劇的に変わっていく戦場ヶ原の風景に大興奮。容赦ない光の照射に、霧がぼくの体とカメラのまわりをまとわりつきながら急激に昇華していった。じゅううっと音がきこえるようだ。遠く山の裾からは車どものくぐもった音。ほかには湿原の僅かな息遣い。今ここにはぼくを除いて人っ子ひとりいないのだ。清々しい静寂。
遊歩道はこれからふたたび山に入り、さらに北上流の湯滝へ向かう。あとは青木橋を通り戦場ヶ原をぐるりと囲いながら南進して戻るコースとその外側の小田代ヶ原までぐるっと回るコースがあり、その分岐まで来たときに、「クマが出ます」という看板を勃然と発見し瞬時にぼくは戦慄を覚えた。く、くクマが出るのか!しまったクマのことを何も考えてなかった。クマ鈴も用意してなかった。ここにおいて人っ子ひとりいないことの意味が完全に反転し、あれほど清々しかった静寂は不穏な刃となってぼくの五感をきしきしと圧迫する。背筋がぞくぞくするぜ。
本当は湯滝まで歩こうと思っていたのだけど、完全に気を削がれ、逃げ帰ることにした。もっとも短時間で帰れるはずの戦場ヶ原コースに進路をとります。山は本当に音が豊富で、四方八方からカサカサと葉の擦れる、枝の折れる、鳥の鳴く、あるいは何らかの、何らかによる、何らかのための、音がきこえる。キョロキョロとあたりを窺いながらひっそりと歩く。本当は一目散に走ってしまいたかったのだけど、万が一クマに見つかった場合、確実に追いかけられて屠られてしまう。川べりで何らかの獣と遭遇。心臓が高鳴る。
そんなわけで戦場ヶ原のもっとも変化に富みもっとも美しいであろう部分を恐怖とともに足早に通り過ぎたため満喫できなかったのが残念だが、こうして生還できた幸運に感謝したいと思う。…とか思ってたら、なんと危険なことに向こうから一人歩きの若い女性がやって来る。クマがいるかもしれませんよ、と教えてあげたかったが、その後も次々に写真撮影の老夫婦や女性の二人連れ、四人組、家族などが歩いてくるので、何だか拍子抜けしてしまった。あれ?クマクマってそんなに騒ぐことでもなかったのかしら…(でも何人かはさすがにクマ鈴を鳴らしていたけど)。
たまに、若くまた妙齢の女性とすれ違うこともあり、その光景は非常にそそられるものがありますね。彼女らはみな少し緊張して、「こんにちは」と声をかけても胸がつかえたみたいに声を詰まらせ、ちょこんと頭を下げて俯いたまま通り過ぎていってしまう。おそらくそのとき、彼女たちにとってはぼくがクマそのものだったんでしょう。がおーっ。
というわけで、美しい戦場ヶ原をぐるりと一周してきた。クマにびびって満喫できなかったことが返す返すも口惜しいのだけど、まあそれも良いでしょう。人里離れた山中の独特の静けさ、朝の光にきらめく獣の毛並みなんかは、息をのむ得がたい経験だったと思う。光に包まれた戦場ヶ原やその中をとおる湯川の穏やかな流れなど、素晴らしい光景にいちいち感嘆のため息をもらした。
しかしハイライトは三本松茶屋に戻ってきたときだ。道沿いの茶屋でラジカセからPerfumeの「リニアモーターガール」が流れていたのだった。
あるいは「Perfumeが最近人気らしいがそのメジャーデビュー曲なんか流すといいんじゃね?」的な選曲なのかもしれない、それに際しては「ファンデーション」を選ぶと渋いでしょう。ファンデーションはほんと良いんですよイントロを聴くたびに心が震えるわ。あるいは単なる偶然、有線で流れたというだけの話かもしれない。しかし駐車場から出るときに、リスペクトの意味で「リニアモーターガール」を爆音でかけながら三本松茶屋を後にしたのだった。
↑後編へつづく。でも特に面白くないです。それはともかくとして、日光への旅によって今年のぼくの秋がはじまった。日光は今がちょうど見頃ですかね。中禅寺湖のあたりはそろそろ盛りを過ぎる頃かなあ。いろは坂あたりはこれからが良いでしょうね。もっかい行きたいなあ~でも寝て行かないとダメですほんと。そのあたりが後編のぐだぐだな感じ
Trackback(0) Comments(6) by 雨|2008-10-19 03:03
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