栃木との県境に位置する、笠間の仏頂山をめざす。1時間もしないうちに山頂に着く、ちょっとしたハイキング程度の山だと本に書いてあったので舐めてかかったら、とんでもなかった。
ふもとにある楞巌寺の駐車場に車を置かせてもらい、駐車場前の登山道を行く。関東ふれあいの道として整備されていて歩くのに問題はないのだけど、数日前に降った雪がそのまま残ってあったりぬかるみがあったりで、多少ひるむ。
登山なんて、それこそ近くの山をただ歩いて登ったことがあるくらいで、ぜんぜん経験が無い。今回の仏頂山にしたってほんの気まぐれである。まして冬山だから熊とかイノシシとか出るのかなあ…狩猟もやってんじゃないか。間違って打たれたらどうしよう…などと考えてしまう。じっさい、雪がかぶった道には人の踏み跡に、イノシシや動物の足跡がまじったり、山の奥へと逸れていったりしていた。
山に入ると、常緑樹が高くそびえ立って道を覆っている。寒くて薄暗いけれどさわやかな気分になる。しかし、山道に入る前から吠えていた楞巌寺の犬の声がまだ聞こえ、ぼくに警告し続けているようで非常に心がざわつく。イノシシに突進される、あるいは熊に食いちぎられる自分の姿を想像してゾッとなる。
少し歩くと明るくなり、日差しもあたたかくて嬉しくなるが、すでに傾斜がきつくなっておりはやくも汗をかきはじめる。ウーム、やはり日頃の運動不足は深刻だ。多少展望もひらけており、筑波山のほうの山並みが眺められる。
何度かゆるめのアップダウンを繰り返すうちにかなり疲労も溜まってきたのだが、じわじわと身体も慣れてきた。これはなかなか嬉しい感覚である。イノシシの足跡と葉の落ちた木々の美しさを眺めながら雪道をひたすら行く。
あたりはとても静かで、時折ヘリコプターの音なんかが聞こえる。遠く街のごおおお…という音も聞こえてくる。風にゆれ、がさがさと音がする。杉の葉から落ちた雪がざああ…さらさらと音を立てる。ぼくはふたつの意味で耳を澄ます。山の音と、突進の音だ。幸い、身に危険は無さそうだ。
雪道についた足跡はぼくのそれと比べて輪郭が多少曖昧だ。おそらく前の日のものなのだろう、今日のでないのが寂しい気もしたが、何にせよ最近ここを通った人がいるのだ。山に慣れていない身としては何とも心強い。
しばらく進むと、目の前に急な傾斜の階段が現れる。この階段が長くて、何度か立ち止まってはあはあと息をする。これを登りきればすぐ山頂だ。しかし展望は無く、休憩のテーブルとベンチも含めて一面雪に覆われている。
「ま、こんなもんかね…」と思い、今度は高峰山へと向かう道を下りていく。こちらの道はさらに雪が積もっており、しばらく白銀の景色だ。道のりは結構きつい。雪が無ければ多少は違ったかもしれないけれど。
一度、階段をツルッと滑り落ちる。が、スタンッと着地。まだまだ若いのだ、と思う。しかし足の疲れはいや増す…。
50分くらい歩いただろうか、ふたたび視界がひらけてきて遠くの山々が望めるようになった。ふと下を見ると、山が切り崩されている。採石のようだ。少し進むと奈良駄峠に到着、採石場が広く続いていた。大きな岩がごろごろと転がっていて、なかなか異様だ。大きくひらけているので明るく、無人ではあるがシャベルカーが三機くらい置いてあって、空しくもあったがだいぶほっとする。
この奈良駄峠が仏頂山と高峰を結ぶひとつのポイントである。茂木方面からも峠に合流できるようだ。少し先に高峰へと登る階段と池亀へ下りる道の分岐があり、少し迷ったが足がへとへとということもあり下りていくことにした。高峰はまた今度。
しかしこの道はさっきまでと違って倒木があったり藪になっていたり崩れていたりであまり使われていないようだった。するとさっきの採石場につながってしまい、その先の道は消えてしまっていた。仕方が無いので中に入って車両用通路を下りていくことにした。
ところどころぬかるんで歩きにくい採石場を出て、やっと舗装された道へ出る。民家も点在し何とか一安心。しかしこれから楞巌寺まで歩いて戻らなければならない。時刻はお昼を回ったところ。10時20分のころ歩き出したので、1時間40分殆ど歩きどおしだ。足は疲れ、ふらふら。左足が痛みはじめている。やれやれ。
だらだらと次回へ続く。
*楞巌寺(りょうごんじ)…臨済宗妙心寺派の寺(もとは律宗)で、笠間氏の菩提寺として隆盛を誇った。寺の裏山はヒメハルゼミ(国の天然記念物)の発生北限の地として有名で、また寺に至る前には茅葺きの立派な山門が待ち受けており、国の重要文化財に指定されている。
*仏頂山…標高430.8m。三等三角点。結構きついです。
*出会った人…無し。山の中に一人というのは、さすがに寂しい。かといって、熟練登山者に会ったりしたら気恥ずかしい。
» Tags:山行き,
by 雨|2008-02-12 02:02
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