壮絶な飲み会から一夜明け、すっぽかした人にはひととおり陳謝した。
千葉の親戚の方々には、
「急な仕事が入りどうしても抜けられなかった」と、
入院中のノンタンに嘘を言わせてしまった。
今日は水戸に行くので午後いちに面会。
昨日の一件、やんわりじんわりたしなめられました。
昨日はボクのマンションの外にオートロックで寒中締め出された子が若干1名いた。
って、後から聞いた。
この子、ボクの部屋でDVD大会が始まったっつうんで、
見せたいバンドのDVDを家にちょこっと取りに帰ったつもりが、
音が相当でかかったのか、ピンポン押しても、携帯鳴らしても誰も聞こえやしない・・・
前にも近くのコンビニまで買出しに行ったきり締め出された輩がおったな。
そんときのボクはやはり爆睡していたらしく、結局あきらめて帰ったらしい。
爆睡と言えば、数年前、管理人のオババから仕事場に通報があったことがある。
「お宅のドアの前の通路で人が寝ちゃっていて起きないんですけど、知り合いですかぁ?」
よく聞くとそれは古い友人だった。
まあボクも締め出しは良くあった。
でかい会社の夜間残業の時、給湯室にカップ麺のお湯を入れに行ったら、オートロックでアウト。
暗証番号を教えてもらうのを忘れていた。
携帯も財布も上着もそのままデスクに残したまま、しかたなく家まで歩いて帰ったっけ。
外国ではホテルの廊下にある氷を取りに、カードキー持って出るのを忘れ、
バスタオル一枚で、アイスピッチャー片手にフロントに。
「ヘルプ ミー プリーズ!」でした。
オートロックの極めつけはロンドンでの出来事。
ちょっと長くなるけど、忘れもしない思い出なのでこの機会に書き留めておきます。
ボクがロンドンに住んでいた92年のクリスマスの話。
その頃、坂井真紀さん主演のTVドラマの撮影がロンドンでひと月程あった。
その撮影スタッフの一人がボクの友人のT氏。
彼とのつながりでボクもそのロケの手伝いをしていた。
そして、ロケ中盤のクリスマス休み。
当時のロンドンのクリスマスはまるでゼネスト状態、街から人影が消え、
すべての店はもちろん、交通機関まで休みに入る。(正月の丸の内のよう)
人々は皆、実家に帰ってクリスマス休みを過ごすのだ。
ボクはイギリス人の友人宅でのクリスマスランチに招かれていた。
イギリス人にとってクリスマスランチはとっても神聖なイベントである。
例の大きな七面鳥でお祝いするお食事会だ。
スタッフのT氏にそれを話すと、
「僕は行くところがないんだ、たのむからいっしょに連れてってよ。」
と、せがまれた。
デビューしたての坂井真紀さんも他の出演者やスタッフとそのフラットで合宿していたが、
彼女たちはこの休みを利用して、たしかエジンバラだかスコットランドだかに出かけて行った。
クリスマスの日のお昼前、ボクはT氏をピックアップしに彼のフラット(アパート)に向かった。
ボクは約束より遅れて到着(正装に近い服が無くて出がけにもたついていたのだ)。
T氏のフラットのドアの金具をカーン!カーン!と思い切り鳴らすと、
ドアポストの口から手が出てきて、
「助けてくれ~」と力のないT氏の声がした。
キーを持って出るのを忘れ、部屋のドアとフロントのドアの間の廊下に閉じ込められていた。
泥棒だらけのロンドンではセキュリティのため、
フロントのドアはキーがないと内外どちらからも開かないしくみ。
そしてもう一つ廊下の奥にもドアがあるがこちらは内からは開くが、外からはやはりキーがないと入れない。
ボクはあきれて、
「キーがないと、もう、どうしょうもないじゃんかよ。約束に遅れるから先に行くよ。あとで監督に電話しとくし。」
すると、
「たのむ、このまま置いて行かないでくれ、みんなクリスマスで田舎に行ってしまった。明後日までだれも帰らない。たのむよぅ~。助けてくれよ~。」とT氏。
「じゃ警察呼んどこうか?警察にドア破ってもらえば?」
「だめだめだめだめ、そんなことになったら仕事クビになっちゃうよ。」
こんな押し問答がしばらく続き、その場を去ろうとするボク。
ドアポストの口から手首を出して助けを乞うT氏。
「裏庭にまわって壁の雨水パイプをつたって登れば最上階(4階)のバルコニーに行ける。そこのトイレの窓が開けっ放しだから、そこから入ってくれ。鍵の束は3階の部屋のベット脇のテーブルの上にあるから。とにかくお願いします・・・」
結局、ボクは彼を出してやることにした。
ロンドンのフラットは巨大な長屋構造。
裏にまわった時どれが彼の家か解るよう、遠くまで行って順番を数え覚えておく。
彼の思案どおり雨水パイプをよじ登る。
木登りが得意だったボクはわりと簡単に2階に達した。
3階まで来て下を見ると真下は石畳。
落ちたら死ぬと悟った。
すると、コートのすそが針金に引っかかって取れなくなった。
無理に引っ張ったら見事に破けた。
なんだよ~!
タケオキクチが台無しだよ~!
なんとかトイレの窓までたどり着いた。
しかし、開いているはずの窓が閉まっているではないか。
なにか妙な胸騒ぎ。
あきらめて戻ろうと思った。
だが、その窓にはガラスを丸くカットした透明プラスチック製の空気通しが付けられてあり、
それがどうも気になってしまったのだ。
試しに押してみたら簡単に外れた。
穴から手を伸ばすと、取手式の鍵に届いたのでそっと開けてトイレに入る。
便器のフタに着地したので足跡がきれいに付いてしまった。
階段を降りて3階の部屋に入る。
どうも様子がおかしい・・・
カーテンは全て閉じられていて暗く静かだ。
やっと目が慣れてきた。
でかいラウンジの真ん中にグランドピアノが置いてある。
ピカピカのサックスも飾られている。
暖炉のマントルピースの上には数えきれないほどのクリスマスカードが並べてあった。
極めつけは巨大なクリスマスツリー。
心臓のビートが一気に上がる。
やっべー!ここは隣の家だ!!
家の順番をひとつ数え間違えていたのだ。
あわててまたさっきのトイレに駆け込んだ。
今度はバルコニーをつたって、もうひとつ隣のバルコニーへ行けるかトライしてみる。
だめだ。壁が広すぎて手を掛けるところがない。
いったん降りよう。
来たルートで降りることにした。
そしてまたさっきと同じように隣の家の雨水パイプをよじ登る。
パイプをつかむ握力が弱ってきた。
どうしよう・・・人が見ているんだけど・・・
今度は向かいの窓から、ジイさんとバアさんがけげんそうにこちらを伺っている。
さらにあせりが増してきた。
ボクはアジア人だし、クリスマス休みを狙った空き巣だと完全に思われてしまっている。
きっとさっき隣に侵入するのも見られているのかもしれない。
俺はいったい何をやってるんだよ~
彼らが警察を呼んでボクが捕まる前にこちらから何かアピールしたほうが良いのではないか。
いっそ彼らに助けを求めようか?
反射的にボクはそのジイさんとバアさんに手を振って思いきり叫んだ。
「ヘルプ!!プリーズ コール ポリィース!!」
しかしなんの反応もない。
二人ともじっとこちらを見ているだけ。
あいつら耳が遠いのか?
何で見てるだけなんだ?
彼らのことは無視することにした。
しばらくして、力を使い果たすもなんとかT氏の家のトイレに侵入。
確かにこちらのトイレの窓は開いていた。
3階で鍵束を見つけ、1階の廊下に出るとT氏がバンザイで待ち構えていた。
ボクの到着が遅かったので、車が来ているかどうか、
ちらっと外を覗くはずが、内側のドアを閉めてしまい、こんなことになったそうだ。
肝心のクリスマスランチには2時間近く遅れて到着した。
イギリス人家族のみんなは律儀にも食べずに僕らを待っていてくれた。
しかし、出迎え恒例のハグは無し。
明らかに、怒っているぞという空気感。
彼らに遅れた理由を話そうと思ったが、説明がややこしくなるのでやめておいた。
下手な英語で話してみても変に勘違いされるのがおちだ。
T氏はというと、ひとりニコニコ顔で七面鳥をもぐもぐ食べていた。
そういえば今日は水戸のバンドライブレポを書くつもりだった。
そのレポはまたの機会に。
by 野澤真人|2007-12-03 05:05
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