出生届けを出した日の晩、電話の向こうでノンタンが泣いていた。
「どうしたの?何があったの?」とボク。
「マーくんの心臓に孔が開いているって、さっき先生に言われたの・・・どうしよう・・・」
「心臓に孔が開いているだって・・・・・何それ?どういうこと?」
次の日、入院先の病院で小児科の先生から詳しく説明を受けた。
マーくんの病名は先天性の「心室中隔欠損症」。
さらに「動脈管開存症」も若干伴っているとのことだった。
生まれてすぐに判っていたことらしいのだが、産後の母体へのショックの配慮の為なのだろう、1週間して我々に知らされた。
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ノンタンは出産予定日を10日経過してやっと陣痛が始まり、その日の午前に入院。
ボクは双方の実家に連絡、さっそく、水戸からジージとバーバが初孫を見にやって来たのが、まだ生まれる気配はないとのこと。
水戸の二人にはその日は帰ってもらい、ボクも自分の仕事場に戻る。
陣痛が始まってから3日目の夕刻。
ボクが病院に駆けつけると、ノンタンはすでに、分娩室の隣の陣痛室のベッドで、
「うあ゛ぁーーん、うあ゛ぁーーん」と、これまでに聞いた事のない、映画によく出るテラノサウルスレックスのような恐ろしい声をふりしぼっていた。
ノンタンはすでに朝から点滴に陣痛促進剤を投与されている。
この、陣痛促進剤、効いてくると陣痛の痛みもハンパじゃないらしい。
実際その時はまともに会話できる状態じゃなかった。
ボクは助産婦さんのアドバイスでノンタンの背中をさする。
しかしこれがどうもやりにくい。
丁度ボクのヒザ小僧にベッドの角ばったパイプが当たるのだ、そうしないとボクの手はノンタンの背中まで届かない。
しかも両方の腕で呼吸のつど横方向に力をこめてさすらねばならない。
こんな状況だけど空腹と睡魔に襲われる。
こっそりポケットウイスキーでも持ち込んでいればもう少し元気が出たのに。
いつ生まれるのだろう。
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(赤ちゃんの心音と陣痛の波を計測するマシン)
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助産士さんに聞いても「もうすぐでしょうから、がんばりましょうね。」としか答えてくれない。
このままだとボクが先に失神しそうだ。
ボクはヒザが痛くてしょうがないので、途中から、部屋の向こうにあった”陣痛逃しゆり椅子”を持ってきて試しにノンタンに座わらせてみた。
これがうまいこと気に入ってもらえてこちらも助かった。
今度はボクもベッドに座って、バイクのタンデムスタイルで、ノンタンの呼吸に合わせて、腰のツボを親指で押す手伝いをした。
これ、結構よい効果があったらしい。
助産士さんより上手とノンタンにほめられた。
横に寝ているよりは少し楽になった様子。
すでにノンタンの顔には血管が真っ赤に浮き出している。
いきんで目をつぶるとその血管が切れて跡に残るよと言われた。
「目をあいてー、はい、ひぃーいっ、ふぅーうっ、はいがんばってー、ひぃーいっ、ふぅーうっ・・・」と声をかけ続けた。
(以前は、フッフッ、ハー、フッフッ、ハーが通例だったのだけど・・・)
それから、2時間くらい経過。
子宮口は8センチまで開いているのだがまだ破水はない。
赤ちゃんを通すには10センチくらいまで開かないといけないらしい。
しばらくして、産科の先生とナースさん、助産士さんが来た。
「ずっと、モニタールームで様子を見ていたのですが、赤ちゃんの脈が下がってきました。このままだと赤ちゃんも母体も危ないので、帝王切開しましょう。だんなさんにも同意書に書いてもらいますね。」と先生。
「えっ、マジッス? て、て・い・お・う・せ・っ・か・い・ですか?」
確かに赤ちゃんの心拍数の表示が急に下がっていたので、ボクも気にはなっていた。
「はい、今からすぐ麻酔を打ちますね。」
ついに来るとこまで来てしまった。
「ボク、立会いできるんスか?」
「だんなさんは手術室には入れませんので、待合所にいて下さいね。」と優しい笑顔でナースさん。
もともと血を見るのが苦手なのでそれを聞いて少し安心。
ボクは誰もいない手術室前の待合所のソファーに座ってひとり待つことに。
疲れと睡眠不足で体を横にするとすぐ眠ってしまった。
病院の廊下にボクのいびきが不気味に響いていたのだろうな。
そしてその30分後に、マーくんが誕生した。
・・・これが出産までのあらまし。
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(緊急帝王切開のため手術室へ運ばれるノンタン)
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(誕生から15分後のマーくん)
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この病院では帝王切開で生まれた赤ちゃんは心電図を24時間モニターし、エコー(超音波)で念入りに検診されるそうなのだ。
マーくんの、まだ、3センチにも満たない小さな心臓から、心雑音が聞こえていたらしい。
最初、自然治癒の確立が極めて高い「動脈管開存症」が疑われ、エコー検診によってそれを確認。
そしてさらに、心臓の心室を分ける中隔という壁に5ミリ程の孔が開いており、心臓の中の血液が逆流しているのが確認された。
孔の大きさと場所がやっかいなので、こちらは自然治癒が望めない状態なのだそうだ。
自然分娩の場合はそういったことも見逃されるケースがあると聞く。
マーくんは早期に発見できてよかったと、それだけでもラッキーだったんだと、自分にそう言い聞かせている。
そして今回、小児科の先生から、1時間に渡ってマーくんの状態について説明を受けるに至る。
「この時点では今後のことははっきり言えないので、専門医のいる病院を紹介します。退院したら、そちらで再検査しなさい。」とのこと。
この小児科のおじさん先生、産科のハキハキしたさわやか先生と違って、学者肌のマイペースなお方。
最初のうちは何を言ってるのか、声が小さすぎてさっぱり聞き取れなかった。
こちらもマーくんの心配が先走り、その話し方にイラッとする。
(あのさわやか先生のほうが解り易かったのに、だいじょぶかな)
ノンタンは先生の話もまともに聞けないほど泣きじゃくっていた。
ボクは目を先生の口元に集中させ、耳の穴を全開にすると、だんだんと先生の話が理解できた。
そしたら、ほんとに子供のことを思ってくれているすごい先生だとわかった。
今後、マーくんは心臓切開手術の可能性もいなめない。
ふつうに長生きできないのだろうか?
一緒に外で遊べる子に育ってくれるのだろうか?
とりあえず、次の病院での検査を待つしかない。
そして、昨日、このことをブログで書くべきかどうか、ノンタンといろいろ相談したんだ。
「同じ病気を持つ両親やそのまわりの人にも読んでもらいたいよね、だからブログなら公開してもいいいかもね。」という点では意見が一致した。
しかし、友達や親戚には手術が済んで元気になるまでは話したくないと言っていた。
それが母親としての正直な気持ちだと思う。
子育て奮闘記というサブタイトルで勢い立ち上げたこのブログ、
これからしばらく闘病日記になってしまうのだろうか。
五体満足、健康で生きているということ、それだけで奇跡のようなものなのだ。
» Tags:心室中隔欠損症,
by 野澤真人|2007-12-13 19:07
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