口コミ頼りの隠れた名店でもなく、売切れご免の超人気商品があるわけでもない。「お菓子のきくち」はごくごく普通のお菓子屋さん。でもワタシにとっては特別な、思い出深いひと品がそこにある。
13年前のちょうど今頃、親戚や親しい友人から◯との初節句のお祝いをいただいていたワタシは、お返しを何にしようかと考えていた。長年待ち望んでやっと授かった子だ。その初めての桃の節句はまさに桃色の空気に包まれていた。
話しは更に過去に飛ぶ。幼い頃ワタシは大好きだったおひな様を、隣家の火事のせいで水浸しにされて失くしてしまった。ガラスケースの中にちまちまとした10体の木目込み人形とお道具が、5段に並んでいたものだった。質素なうえに古ぼけてもいたが、空想癖のある少女にとっては異次元の世界への、もの凄く入りやすい入り口だった。飽きること無く何時間も眺めては、その世界に入りこみ、お喋りをしたり物語を考えたり。ふと我に返る時は、ほう、と疲れてため息が出るほど浸りきっていたものだ。
◯とが生まれたことで、母からおひな様を贈られた。母は何も言わなかったが、これは孫だけでなく、ワタシへの贈り物というつもりもあったのだと思う。いつまでもなくしてしまったおひな様を恋しがるワタシと母の間には、お互い心の傷になる思い出もあったから…。母は何としても京人形の立派な七段飾りを与えたがった。ワタシは木目込みのなるべく小さなのが良かった。折衷案として、前回のブログで紹介した京人形の二段飾りになったのだ。
優美なおひな様を部屋に飾ると、何だか無性に嬉しかった。幼いままにフリーズしていた3月のワタシが、そこからやり直せたような気がする。そして幼い娘がいつかワタシと同じように、あの不思議な時間を旅するかもしれないと思うとわくわくした。
テーブルの上には桃の花。やっと出逢えた我が子も花のように笑っている。◯とが笑えばそこにいる皆が笑顔になった。部屋の隅では遠い日に別れたおひな様が、物語の続きを待っている。
こんな気持ちにぴったりの品はないものだろうか。デパートで選んだ無難な内祝いの他に何かもうひとつ、桃色なひと品を。そう思っていたワタシの心に、どんぴしゃり!とはまったのが「さくら上用饅頭」だった。
生地に山芋を使うことで、しっとりとした皮になる。元は山の芋類を指す薯藷(じょよ)という言葉が語源だが、薯藷饅頭の美味しさは、高貴な方への献上品として重用されたところから、いつしか上用の文字を充てることも多くなったという。そのいわれに偽り無し。上用と呼ばれるだけの品の良い美味しさである。こしあんを抱いたほんのりピンクのお饅頭、天には桜の花の塩漬けのせて、なんと桃の節句にお似合いの様子でしょう。
春先のほんの短い期間、予約でしか買うことができない「さくら上用饅頭」は、今年は2月23日から3月3日までが引き渡し期間で、3日前までに予約が必要だ。ワタシは茨城県庁前店に先週予約を入れて、今日が受取日だった。身近に節句をお祝いしたい人がいる方は、どうぞご検討下さいね。お菓子は幸せになるための食べ物。幼子の幸せを祈るあなたの気持ち、きっちり届くと思います。
Trackback(0) Comments(4) by Yamepi|2008-02-26 09:09
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