小学生のとき近所のおもちゃ屋さんで
小さな円筒形の振ると音の鳴るものを見つけました。
カランコロンとやわらかい
赤ちゃんの形のおきあがりこぼしのような音がする、
ただそれだけのもの。
いくつかあってそれぞれに絵が描かれてありましたが、
ワタシの目を引いたのはおよそおもちゃらしからぬ暗い色合いでした。
細い三日月がひっかかる紺色の夜空を背景に、
つば広の帽子を被って月を見上げる黒い男のシルエット。
その夜空に書いてあった言葉が気に入って
自分のお小遣いで買いました。
かなしいことなどありまして
たのしいことなどありまして
こころにのこるそのうえに
つきひがあおくふりつもる
文の終わりには釘でひっかいたような文字で、
や な せ た か し とありました。
ずいぶんたってからその言葉はただの散文ではなく
一編の詩の一部だと知りました。
全文はこうです。
『月日が青く』 作やなせ・たかし
かなしみなんかありまして
よろこびなんかありまして
心にのこるその上に
月日が青くふりつもる
しあわせなんかありまして
さびしいこともありまして
心についた傷あとも
月日がいつかけしてゆく
ほほえみなんかありまして
きずつくこともありまして
心にしみたなにもかも
月日がのせて流れゆく
やなせ氏と言えばアンパンマンの作者として有名ですが、
実はあのアニメはワタシの好みではなく、
子どもたちにほとんど見せる機会の無いままに通り過ぎました。
だからワタシの中でやなせたかしと言えば、
初めて気持ちが動いて何度も暗唱した詩の作者ということです。
今見ても、やはり第一節が良いなと思います。
当時のワタシも幼いなりに、人生にかなしみと無常を感じていました。
子どもの心はおとなが想像するよりずっと 深く青い時があります。
Trackback(0) Comments(2) by Yamepi|2013-10-16 19:07
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