今月いっぱいで辞めさせていただくことになった習い事の先生から、お食事に招待されました。ありがたくお受けして、次回のレッスン終了後にどこかでランチをすることになりました。
1週間後。レッスンが終わり、さて参りましょうかという段になって、先生がこうおっしゃいました。
「レストランを予約しておきました。異国情緒たっぷりで、いい雰囲気なんですよ。キエフというロシア料理のお店なんですけど、ご存知?」
「ええ」とワタシ。
ええ、ええ、知っていますとも。そこにはとても特別な記憶があるんですもの。
昨年末に「My Holly Story モコの想い出」という題名で書いた記事、後編に出てくるお店こそ、このキエフなのです。
忘れることのできない、聖なる記憶。
時折無償に訪ねてみたくなりつつも、こんなに長い間、ただ通りから眺めるだけにとどまっていたのは何故?助手席の先生とお喋りをしながら、頭の片隅で自問自答してみてもはっきりとした答えは出てきません。
ただ、あの日の不思議な経験をいつまでもたいせつにしていたい。
その店は以前は国道の反対側に建っていました。童話に出てくるこびとの家のような佇まいでした。
今はもっと堂々とした構えです。まだあまり年月が経っていないので以前よりも風格に欠けますが、あと10年もすればもっと美しくなりそうです。
店内には以前の雰囲気がずっと色濃く残っていました。家具や備品などはたぶんそのまま使っているのでしょう。ビロードのカーテンや重々しい調度品が落ち着いた雰囲気を醸し出しています。テーブルクロスの色の組み合わせなど、なかなか見ないです。行ったことないけど、ロシアっぽい。
女主人がオーダーを取りにきました。そう。この方と話しているときにモコが入ってきたのです。お年を召されてはいますが、すぐにわかりました。
でもこの方にとってワタシは一見の客。昔々お会いしたことがあることも、増してやこちらで飼われていたわんちゃんに特別な想いがある由など、知るはずもありません。心の中だけで「お久しぶりです。その節はお世話になりました」とご挨拶しました。
店も店主も時の流れとともに変化していましたが、お料理の味は変わりませんでした。ボルシチとシャシリクというチキンのスパイス焼きをいただきましたが、口に入れた途端、ああこういう味だったなぁと思いました。
美味しい料理と素敵なムード、そしてゆったりと語らいながら食事を楽しんでお店をあとにする時、一瞬「昔モコちゃんという名のわんちゃんを飼ってらっしゃいましたよね」と聞いてみたい気持ちになりました。
でも、聞いてどうする?
「あら、なぜ知ってらっしゃるの?」と聞かれて、仕事の邪魔にならないように駆け足で説明することになったら嫌だな。そう思って止めました。
20年近く気になりつつも足を向けなかったお店ですが、これからはきっと美味しくて雰囲気の良いレストランとしてたまに行くかもしれません。スパイスの効いた肉料理やパイ包みのスープなど、我が家好みのお味です。他のメニューも気になります。
そしてその時はきっと、モコの笑った顔をまた思い出すのだと思います。
その昔モコと暮らしていた頃のワタシは田舎の中学生でした。遠い遠い未来でモコとロシア料理が結びつくことなど想像もつかなかったことです。召されて何十年も経つのに、どうして人生の所々でぎゅぎゅっと深く思い出したり、接点を感じることがあるんだろう。
もしかしたらワタシとモコには、まだ続きがあるのでしょうか。
たにしぢゃないよえにしだよ
Trackback(0) Comments(4) by Yamepi|2009-06-23 17:05
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